第17話 そばにいてくれるなら
今日はいよいよ婚姻届を出しに行く日だ。
いつもより何倍も気合を入れ定時に仕事を終わらせる。
緊急の案件が入らなくて本当によかった。
さっと片付けをし挨拶を済ませてビルを出る。
美優に連絡しなくては……!
18:05 『定時になんとか終われたよ!今から帰るね!』
18:06 『お疲れ様!前見てみて』
……前?
スマホから目を離し前を向くと美優が少し遠くに立って手を振っていた。
俺は急いで駆け寄る。
「仕事お疲れ様。拓哉」
「どうして美優がここに……?」
「楽しみすぎて来ちゃった。それに少しでも一緒にいたかったから……」
美優は照れくさそうな顔で笑う。
本当に楽しみにしてくれていたんだな。
見るといつもより服装や小物などいつもよりお洒落していた。
黒を基調としたワンピースと派手すぎないネックレスが美優の美しさを引き立てている。
「俺も早く会えて嬉しいよ。それに今日の服装似合ってるね。すごく綺麗だよ」
「あ、ありがとう……」
「それじゃあ行こうか」
手を美優の前に差し出す。
美優はニッコリ笑って俺の手を取ってくれた。
手を繋ぎ駅の方へ歩き始める。
美優があまりにも綺麗で周りの人の視線を集めているが当の本人に気にした様子はない。
慣れっこなんだろうなぁ……
「着いたね。ここから何駅くらいだっけ?」
「五駅くらいかな。そんなに時間もかからず着けると思う」
「了解」
美優と一緒に電車に乗る。
帰宅時間だからか人がかなり多い。
俺は美優を扉付近まで連れていって庇える位置に立つ。
人から押されたり考えたくはないが痴漢とかもあるかもしれないからな。
「美優、人多いけど大丈夫?苦しくない?」
「拓哉が守ってくれてるから大丈夫だよ。ありがとね」
「それならよかった」
美優と雑談しつつ十数分電車に揺られ続ける。
そしてようやく目的の駅に到着し電車を降りる。
人の圧力が消え開放感に包まれた。
いくら毎日乗って慣れているとはいえ満員電車は心地の良いものじゃない。
「さて、役所は確かこっちだったよな」
「そうだよ」
役所はたまに来るから大体の場所は覚えてる。
もう役所はしまっているので時間外受付の窓口を目指す。
五分ほど美優と雑談しながら歩いていると役所に到着した。
「それじゃあこれを提出しに行こう。そうしたら俺達は夫婦だ」
「うん……!」
俺達は頷きあう。
そして美優と一緒に受付まで行き担当の人に話しかけた。
「こんばんは。本日はどのようなご要件でしょうか?」
「婚姻届を出しに来ました」
「婚姻届ですね。拝見させてもらってもよろしいでしょうか?」
「わかりました」
美優が持っていたカバンからファイルを取り出す。
そして中から慎重に婚姻届を抜き取り受付の人に渡す。
受付の人は書類の中身を確認し始める。
「拓哉さんと、美優さんですね……………はい、特に書類に不備は無いようです」
「それじゃあ……!」
「ご結婚おめでとうございます。正式な受理はまだ先ですがこの書類なら問題ないでしょう」
「やった……!」
「よかった……!」
俺達はそのまま婚姻届を受付の人に任せ外に出た。
紙を一枚役所に提出しただけなのに心が喜びで満ちている。
「これで俺達も夫婦だな……」
「本当に夢を見てるみたい……」
美優の方を見ると少しだけ泣いていた。
俺は軽く美優の頭を撫でて近くにあったベンチに一緒に座る。
夕食の店の予約時間にはまだ余裕がある。
「ごめんね、つい嬉しくて涙が出てきちゃった。ずっと夢だったから……」
「そう言ってくれると嬉しいよ。村松美優さん?」
「ふふ、村松美優かぁ……書く時に間違えないようにしなくちゃ……」
美優は胸の前で小さく拳をグッと握る。
その姿はなんとも可愛らしくいじらしい。
さっきまでの受付の人へのクールな対応とのギャップがすごい。
「ふふ」
「私は真剣なのになんで笑うの」
「いや、俺の奥さんは世界一可愛いくて美人だなって思ってさ」
「か、かわ……!?なら許す……拓哉の奥さんだもん……」
美優の機嫌も無事に直ったようだ。
俺はもう一度美優の頭を軽く撫でて美優と向き合う。
「これから喧嘩したりとか問題が起きたりするかもしれない。それでも美優と一緒なら残りの人生がきっと更に色鮮やかなものになると確信してる。だから美優に愛想尽かされて捨てられないように頑張るよ」
俺の誓いのような宣言に美優は一瞬目を丸くさせる。
それでもすぐに笑って美優も話し出す。
「そんなことするわけないよ。私にとって拓哉以上の人なんてこの世にいない。だから私も拓哉のことを支え続けるしずっと好きでいてもらえるように頑張るね」
二人で宣言し合う。
お互いが自分にとってかけがえのない存在であるからこその誓い。
自然と顔が近づき唇が重なり合う。
数秒後離れると笑みがこぼれた。
大丈夫、俺は美優がそばにいてくれるなら何があっても歩んでいける───




