やまかい
無意味名 パビャ子はとりあえず山の中を歩いていた。理由はない。どんぐりやキノコ、川魚──空腹を満たすための食べ物を探していた。
夏の強い日差しが木々を煌めかせ、登山道は明るい雰囲気だった。
どこからともなく清流の音がして、ハッと耳を澄ます。川魚が食べられるかもしれない。
「いよぉーし!」
道を逸れ、音に向かって行くと、川はなく、あったのは山菜の畑のような珍しい景色が広がっていた。夏には珍しい春の山菜。
「ん、まーいいや。山菜もおいしいし!」
ゼンマイを取ろうとした瞬間、ザザッと草薮から物音がした。
「クマぁ?」
山菜の宝庫を縄張りにしているクマだろうか?
「お嬢さん。どこから来たんだい?」
現れたのはほっかむりをした、野良仕事をしているおばあさんだった。ちょこんとした痩せ型の、可愛らしいおばあさんだった。警戒や拒絶した様子はなく、気さくに笑っている。
「お腹がすいたんでー、何か食べようと思ってました!」
「そうかい。なら、あっちに美味しい蕎麦屋さんがある。案内してあげるよ」
人の良さそうなおばあさんは指をさして、案内すると言ってきた。パビャ子は疑わずにOKを出す。
おばあさんに奢ってもらえるのなら万々歳だ。
「こっちにおいで」
道無き道を歩いていると、いきなり足元がすくわれた。陥没した地面である。そのまま落ちるも、パビャ子は運動神経が良いのでヒラリと着地した。
落とし穴であろうか?
いや、自然にできた──穴は横に続いている。昔の人が掘ったものだろうか?
「あーあー、コイツも人でねえ部類だったかあ」
「残念だなぁ」
「つまんねえなぁ」
同じ姿をしたおばあさんが穴からこちらを見下ろしている。
「うわあ、おババアさんがたくさんいる」
フッと耳を澄ますと奥から水流の音がした。この先に川があるかもしれない。穴の横に人がやっと這いずり、移動できるくらいの穴がまた存在していた。
「じゃあね!」
おばあさんたちを後に、進むと渓流の岩場に出た。あれは昔の人が作った水路だったのか?
しかしパビャ子には関係のない事柄なのだ。爽やかな清流を前に駆け出し、彼女は川にとびこんだ。
あの山では昔からたまにこの世の者でない部類による神隠しが頻繁していたという。
もしかすると口減らしのために、村の者たちが弱者を穴に突き落としていたのか──。
真相は分からない。
久しぶりに書きました。




