消耗品だった
気を悪くしないで欲しい、と至愚は付け加えた。
今のパビャ子なる人物は『スーツ集団』の中でも悪質で力が強く、彼ら独自のルールさえも破っている。それをたくさんの者が疎ましく思ってきたのも事実であり、何よりも最大のタブーである『神殺し』もしている。
「人間の世界で言えば指名手配犯。しかもとびっきりの賞金首さ」
「じゃあ、他のヒトたち?も狙ってるんですか?」
「ああ。そうなるとこの街はめちゃくちゃになる」
「うーん…」
「それこそアンタら人間らには死活問題だと思うがね」
それにはイヨ子の協力が必要であり、彼女に騙されたフリをして、パビャ子を殺めて欲しいのだ。これまでの経験から至愚は内密に働いてきたらしい。
「アレは警戒心が高いから、私でも直接手をくだせない。アンタが一番近くにいける、唯一無二の存在なんだ」
「…そう、ですか」
「ラファティやサリエリは知らないから話さないで欲しい。クソほどややこしくなるからね」
彼女はいそいそとどこからか古めかしい小刀を取り出し、分厚い前足で地面に置いた。美しい彫刻が施された不思議な小刀。
「これ…」
「贄となりアイツの力を持った際にこの小刀で目を突き刺して欲しい。これはあの神社の奉納品だったもの、多少なりとも神の力が宿ってる」
「神さまの力?あの場所は…」
「あの神社には大戸或女神に当てはめられたこの世の者でない部類がいた。その者の力を微弱に感じる。これなら、カタブツに傷を付けられるかもしれない」
(その神さまを、パビャ子さんは殺した?)
本来あの傾斜林──市にある数少ない崖だ──にそのようは神社はない。もちろんそれは、至愚の話を重ね合わせると一目瞭然である。
ネットで見た限り、あるのは水神を祀った祠だ。湧水があったから、水神を祀ったのだろう。
「稀にこの世ではない場に繋がる事がある。それがかの傾斜林に起きている。理由は分からないが、水神の祠はその印かもしれない。またあの場所に行けば、神社跡に辿りつけると思う」
至愚は祠の周りに、弱体化した際のパビャ子が逃げられないようマジナイを施したという。
イヨ子は迷う。
──パビャ子は今まで自分を利用してきた。あの人はこちらの事などただの消耗品だとしか思っていない。
そんなものか、と思った。




