しらはのや
騒がしい教室の隅で、八重岳 イヨ子は頬杖をつきぼんやりと外を見ていた。赤い布をもらってから、それからしばらくつまらない日常を過ごしている。
思春期の噂話はつきない。くだらないな、と心の中で悪態を着いて、ノートにへのへのもへじを書いていると耳に怖い話をしている女子たちの会話が届いた。
「最近また巻かれてた赤い布、なくなったらしいよ」
「あ〜ここら辺の都市伝説みたいなヤツでしょ。どうせイタズラじゃない?」
「ほらほら、ずいぶん前にさ。隣の市でさ〜すごい事件あったらしいじゃん。確かこの高校の女子生徒が犠牲になった…」
「あー、赤い布が関係してるって話?」
「そうそう!赤い布の持ち主に選ばれた人は…」
「やめなよぉ。おじちゃんたちにその話するな、って言われてるから」
他愛もない、暇つぶしの会話に心臓が早鐘を打つ。赤い布。まさか。
八重岳 イヨ子は根っからの、この土地の者ではない。両親は地方からやってきて、この市に家を買った移住者だった。
(え…なにそれ、赤い布って普通のオカルト話じゃないの…?)
彼女たちに話を聞きたかった。でもイヨ子は目立たないクラスの背景、しかもあの子たちのチームの部外者である。いきなり話しかけたらイジメにあうかもしれない。
俯いて必死に感情を押さえ込み、夕方にまでモヤモヤを引きずった。
授業もロクに頭へ入らず、ただ呆然と歩いていると、路肩に老人が腰掛けているのが視界に入った。
「んぬぁ。今年は■■■様の白羽の矢がたったかあ。安泰、安泰」
いきなり声を出され、びっくりし、慌ててその場を去る。
(白羽の矢って)
脳裏に嫌でも人身御供の伝承が浮かぶ。なぜだ?そんな話、この土地で一度も聞いた事がない。そんなの、今でもあるのか?
「どうしよう…どうしよう!どうしよう」
血みどろに染まる夕焼けの街並みが、末恐ろしく感じた。
付け焼き刃なんですが、白羽の矢の伝承について少し調べたりもしました。
ネットって便利ですね。




