表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虚無なありきたり 〜別乾坤奇譚〜  作者: 犬冠 雲映子
ンキリトリセン(パラレルワールド的なジャングルでサバイバル前編)
87/162

とき

 多多邪の宮──麻宇汝旴愧堕焚邪命(まうなあさはたたやのみこと)は天女たちに髪を結いてもらう。

 遙か昔、始祖に見染められ、森羅万象から切り離された。この世の者でない部類がまだ『神聖さ』を帯びていた時代。自らもその類に迎えられたのだと悟った。

 さして当時、珍しい事象ではなかった。

 いつの間にか天から降り立ったと誤認された。天も、黄泉もない。あるのは星に流れるこの時間だけだ。

 区切られていく世界。境ができていく人らの認識、国。言葉。

 神、と崇められ、その際に設えられた供物や、様式を未だ取り入れて、不可思議な髪型にしている。絹のような美しい白に近い茶髪を床に広げているのも動きずらい。

 器用な天女たちがそそくさと古来の髪型にセット完了すると、戸を開いた。麗しい清涼な風が頬に触れ、暖かな光に満ち溢れた世界が広がっている。

 神だと人は多多邪の宮を崇め、信仰した時代があった。

 それがやがて廃れた時代もあった。国の衣服が変わっていき、自らの衣装も変わった。

 金、銀、瑠璃。雅な天上で誰かが舞を披露している。

 神へ使える者の装束に身を包んだ少女が、巫女舞を献上する。

「イヨ子」

 その声を聞くや、少女がこちらを見た。

「わえらを恨むか」

 彼女は何も答えない。ただ二つの黒々とした瞳がジッとこちらを射抜いている。光を反射しない底なしの闇がはまっている。

 対照的に柔らかな表情の天女たちがやんごとなき楽奏をする。イヨ子と呼ばれた女子はまるで幻のように、もうその場にはいなかった。

「あヤツもこの場に来ればよいのにね」

 自由を手に入れ、それに飽き足らず欲をかき、呪いをかけられたあの娘を思い浮かべる。あくびをすると、子供は清らかな世界を眺めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ