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さみしい=うつろい=だいすき
パビャ子は自由だ。
空に向かって両手を広げ、雷を受け止める。電撃に身を任せ、天と地が繋がる感覚を享受する。
または海の流れに身を任せ、魚たちの群れに紛れる。網につかまる。
または山を登り、雲と霧の境目の空気を吸い込み、静寂の中で吹く風の音に耳を澄ます。
または人混みに紛れて、酔っ払い地面に伏したサラリーマンやジッと身を潜めるように座り込んだ浮浪者を横切る。酒臭い夜の街を抜け、線路を歩き、行く宛てのない徒歩の旅をする。
または──。
自由とは、終わりがない。
いつだか、遠い昔、誰かに言われた。「それは現実逃避と何が違う?」
確かにそうかもしれない。自由とは、誰にも縛られてはならない。自由とは──
「私はお前が羨ましいとは思わないよ」
乎代子が静かに言った。夜闇に沈む黒い髪と瞳が視界に映る。
「羨ましいと思った所で、私にはお前みたいに振る舞えないからね」
パビャ子はその言葉が嬉しかった。
パビャ子はパビャ子なのだ。
「私は乎代子が好きだよ」
「おえっ」
パビャ子は乎代子が大好きであれ。




