ざんりゅう
丑三つ時のコンクリート打ちの廃墟で、動物の死骸があった。それを鋭い歯で噛みちぎり食べているモノがいる。
すると建物のどこからか「助けてくれ!」と男の叫び声がした。腐肉を貪っていたモノは顔を上げ、吹き抜け部分を見下ろす。
「んん〜?」
──パビャ子は口についた毛やらをとり、ジッと下を睨む。
「助けてくれ!」
「誰か!俺を見つけてくれよ、だれか!」
「目撃しただけじゃないか!助けて!上に死体が被せられて動けないんだ!」
誰かがひっきりなしに叫び、こちらに助けを求めている。どうやら声の発生源は二階部分だ。
仕方なくパビャ子は器用に吹き抜け部分を利用して二階に降りる。その様はパルクールそのもの。
「助けてくれ!」
男の声は木の板で塞がれた場所からする。「はー…人は食えないんだけどなぁ」
しょうがない、と彼女は木の板の前まで来ると、思い切って蹴り上げた。木が割れ、中身が見える。
布団が積み上げられ、人の姿はなかった。なにより男の声は消えていた。
布団の山をめくってみると腐敗しきった二体と、顔をガムテープで巻かれた同じく一部白骨化した遺体が出てきた。
「…なるほど〜」
パビャ子はそれを眺めながらしばし考える。「そうだ!」
後日。
登山口駅前に布団が三枚敷かれ、遺体が並べられるという怪事件が起こった。あまりの怪奇な風景に発見者は腰を抜かしたという。
ガムテープで顔を巻かれた遺体の上に下手くそな血で書いたと思われる、子供の字で──
助けてくれ
誰か!俺を見つけてくれよ、だれか、
目撃しただけじゃないか、助けて、上に死体が被せられて動けないんだ、
と。警察は遺体の身元の判明を急ぐと共に、犯人を探している。
パビャ子の歯はジャッカルくらいの鋭さを予想しています。




