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虚無なありきたり 〜別乾坤奇譚〜  作者: 犬冠 雲映子
ンキリトリセン(パラレルワールド的なジャングルでサバイバル前編)
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じょうかする

 今日もまた憂うつな気持ちだった。夜更け過ぎに乎代子はまた歩きながら、踏切に置かれたカモシカの生首を眺めた。

 例の『踏切に出現するアレ』がカモシカに見えたのは初めてだった。こうして見るとシカでもヤギでもない、不思議な生き物だなと思う。

 実際、山で出会った事はない。ジッとこちらを見つめる様に人々は畏怖を感じるらしい。

 目。視線。ふいにパビャ子を思い出し、首を傾げた。

 アレはただ置かれているから、どうでもいい。

「やあ、乎代子。あんなもの見て何をしてるんだ?」

 あんなもの…。

 乎代子はカモシカに再び目をやると、それは女の生首に変じていた。「ええ…今日は珍しくカモシカに見えたので…」

「へー。他の人にはカモシカに見えんのかー。面白いよな、この世の者でない部類って」

 この世の者でない部類が、カラカラと笑ってみせた。ブラックジョークに反応せずにいると、声の主──至愚(しぐ)はのっそりと隣にやってくる。

「アレはね。首がまだ線路際にあるから、消えてないんだ。パビャ子に頼むといい。線路の、あの草藪あたりにあるから」

 彼女は癒しの色として用いられた青のLEDライトに照らされた草藪を眺めた。

「あー…なるほど、成仏できないんですね」

「成仏させたいの?」

「あ、いや。だからああやっているのかな、て」

 ふうん、と至愚は興味深そうに頷いた。

「なら、成仏させてあげよう!」

「えっ」

 整った顔立ちに真剣さを灯すと、ブツブツと何やら唱えだした。まるで呪文みたいだった。

天魔外道皆仏性てんまげどうかいぶつしょう四魔三障成道来しまさんしょうじょうどうらい魔界仏界同如理まかいぶつかいどうじょり一相平等無差別いっそうびょうどうむしゃべつ

 ハッキリと口にすると虚ろにこちらを臨んでいた生首がスウーッと消えてしまった。

「うお、すげえ。消えた」

「成仏した。これで良かった?──しかし乎代子、アンタも成仏すると思ってたけどしぶといね」

「え、は…私が?」

 自分もアレらと同じくこの世に留まり続ける存在なのだろうか?

「もう、カモシカは見れないねえ…」

 そういうと至愚はのしのしと歩き始めた。どこか寂しいような、言いがかりを付けるような口調に不思議がりながらも踏切を見やる。

(よく分かんねえけど。呪文って存在すんだな…)

 乎代子は狐につままれたような気持ちになり、ただただ立ち尽くした。

至愚(しぐ)が唱えていた呪文は「魔界()」といいます。

少しネットで呪文の現代語訳を調べたら、いい言葉を言っているな〜、と思いました。

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