よなよな
「よお。あんたも散歩をするのかい」
「…見た事ないアレだな。お前、私を知っているのか?」
夜の散歩をしていた乎代子に声をかけてきたのは、ずんぐりとした獣の肢体を有する化け物だった。
「アタシは至愚。洞太 乎代子。あんたを知っているよ、一度会った事がある」
「覚えてねえな…」
ニヤニヤと至愚は彼女に言う。
「私は地味だからね」
「はあ…」
赤毛の女性を模した頭部はこちらをジッと見ている。気まずい。
「女が一人で夜歩きとは。危ないじゃないの。なんだい?寝れなかった?」
「あー…寝れなかったといえば確かに…。今日はたまたま夢見が悪くて…忘れたくて、こうしてウロウロしてるんですよ」
「へえ。まあ、分からなくもない。私もちょっとばかし気晴らしをしていてね」
人面獣は防犯灯を見上げた。LEDの強い光は路地を煌々と照らしている。
「洞太 乎代子。あまり無茶するんじゃないよ。人生、そこまで丈夫じゃないから」
偉そうな口を利く化け物だ、と乎代子は思うが、こちらを心配してくれたのは理解できた。
「分かりました。では」
「ああ、また。良かったらいつか酒でも飲み交わそう」
美麗な顔を笑わせて彼女は言う。至愚と言ったか。この化け物は人に友好的なようだ。
一安心して会釈し、道を違う。
夢見が悪い日にはやはり夜風にあたりながらぼんやりしたい。スカッとした炭酸水を買おう。
乎代子はそう思考を巡らし、コンビニへ向かった。
至愚さん もっと登場させたい…。




