さいかい
夕方、日課の買い物を済ませ帰る途中だった。
近頃は乎代子やパビャ子と鉢合わせする事もめっきり減り、つまらなさを感じていた矢先、切れかかった街灯の照らす暗闇で、見知った人物にあった。
「先輩、お久しぶりです!」
それは久しく会っていない、部活の後輩だった。彼女の名前は赤谷 美萌。知らない人はいない。
街の至る所に貼り紙が掲示されているからだ。
黒髪を可愛らしい髪ゴムで結き、整った顔立ちをしている。
美少女、なんてテレビでは報道されていた。
「赤谷さん?!どこ行ってたの!?」
「えー?まあ、色々…でも帰ってこれました!」
眩い笑顔に圧倒され、多田 香純は固まった。
あまりにも変わっていないから。
「お、お母さん、すごく心配してたよ?テレビにも出て」
「あー、ちょっと恥ずかしかったです。あれ」
「警察に」
「先輩。お話しませんか、少し」
行方不明事件で有名になり、今も見つかっていない女子高生はまるで昨日まで登校していたような口ぶりだった。
同じ時間帯のある日、突如として彼女は消えた。防犯カメラには下校している姿が写り、警察は失踪と誘拐事件の方向で捜索している。行方不明になってから半年は経っているのに、彼女は見つからない。
香純もそんなものか、と納得していた。
「その格好どうしたの?」
可愛らしい花柄の雨合羽は雨が降っていない夕方には不自然だった。
「着の身着のまま街まで来たんで、こんな感じになっちゃって」
「や、やっぱり」
「でも私、強くなりましたよ。ほら、あの踏切の近くにある公園で話しませんか?」
「あ、うん。分かった」
断れずに頷いてしまい、後悔した。もし彼女が既に死んでいて、この世の者でない部類だったら。
自らはどんな気持ちで受け入れればいいのだろう、と。




