ひきされたはな し のおわり
パビャ子は何となく歩いていると、いきなり近場にある団地の管理人に声をかけられた。
数人、団地の住民たちもついてきて、パビャ子さんはとても力持ちで有名だから、と。ドアをあけて欲しいと言われた。
警察に通報したが忙しいのかなかなか到着しない。待ちかねた自分たちで何とかできないものか。
断る理由もなく彼女はついて行く事にした。
どうやら数週間、電気がついたまま郵便物が溜まった部屋があるらしい。内側からきつく何かで止められ、管理人の鍵でも開けられない。
「う〜ん」
ドアノブを触ろうとした瞬間。
「…あ、用事、思い出しちゃった。管理人さん!ごめん」
パビャ子は困惑する管理人を放置して、乎代子が待っていたコンビニの駐車場についた。
夜風が心地よい。桜が散り始め、季節外れの暑さが街を包む。
気怠げな夜。遠くでバイクが走る音がして、二人は挨拶するとガラス窓に寄りかかった。
「あちくてさあ!アイスコーヒー飲みたかったんだ」
ストローを口でヒラヒラさせながら、パビャ子はご満悦だ。奢ってもらいながらも厚かましく振る舞う。
「土砂災害のニュース持ちきりだね」
スマホをいじっていた手が止まる。「あの雨じゃ、なぁ」
「──有名オカルト系の配信者。あの町の出身なんだって?やばくな〜い?祟られたんだよ、きっと」
「祟りとか非現実的だろ」
コンビニへ入っていった若者らを横目に二人は黙り込む。かの配信者が過去に犯した罪が明るみになり、ある種の非難の的になっていた。
やらせや廃墟への不法侵入。または薬物依存など、よくつるんでいた配信者も巻き添えに彼は死人に口なしの状態で晒され続けている。
「…乎代子はさ、仲間って言ってくれたじゃん」
「まあ」
「嬉しかったよ」
「そう」
視界の隅に大型の獣がいる気がして、フッと顔をやると白い野良猫が視線を感じ、ニャアと鳴いた。乎代子はそれを見て、自虐的に笑った。
希死念慮。ふいにわいた感情に、あの化け物を投射してしまったのだから。
「今夜は酒でも飲もうかな」
「あ、私、甘いのがいいです」
「何でお前も飲む事になってンだよ」
そうして二人は他愛のない会話を続ける。何事もなかったように。──そのすぐ側では野良猫が捕食され、ダラリと死んでいた。
尾のないユキヒョウに似た化け物が音もなく、裏道を歩いていく。
「その欲求がある限り。のびるはいつでも、そばにいるからね」
フスちゃん編が終わりました。わーい!




