のびるふたたび
重厚な錆びた金属が擦れたような耳障りな音。縦揺れがますますひどくなり、もみくちゃにされ、地崩れが起きた。
「あ」
死んだ。
さすがに乎代子も焦る。
「わ、わーーーーー!!!」
パビャ子の悲鳴と共に視界がぐるぐると回り、体が投げ出された。
死。
その感情に呑まれ、感覚が遮断された。
「そうそう。君らのその感情さえあれば、のびるは現れるよ」
脳裏に知らぬ声がして、瞼を開けると砕けた岩と渦巻いた瓦礫の中にいた。何が何だか分からずにきょとんとしていると、不気味な形容しがたい生き物が人面獣に食われている。アレはなんだ。
魚か?それとも蛇か?アレを人の知識で把握するのが愚かしいのだ。
捕食者はプッと血を吐き捨て、ニタァと笑う。血にまみれた口が人の唇であり奇妙だった。悪夢の如し光景が広がっていた。
「あ、アンタ!なんでいるの?!顔だけおじさんネコ!」
「うわっ。あン時の変なオンナじゃん。サイテー」
パビャ子がネコ科の肢体を持つ化け物を指さした。ユキヒョウに似てはいるがどこかちぐはぐだ。尾のない獣は騒がしいリクルートスーツの女性をニタニタと眺めている。
「さいてい!はこっち!」
霧が立ち込めているのに気づき、眼前にいる生き物が元凶だと悟る。しかし
「なんでいる?フスを閉じ込めた人間の血族は絶えた。のびるは帰る他ないね」
呆気にとられているこちらを見やり、化け物は答えた。
「貴方たち、知り合いなんですか?」
「まあ?知り合いだよ。──コケシ、あまりコイツといない方がいいんじゃないのぉ?いきなり噛み付いてくるしさぁ〜」
(コケシ…)
乎代子はやや落ち着きを取り戻しているフスを見やる。額から血を流しているが、他は無傷だ。
知り合いと言われたように、彼の隣にいる。
「がァ!」
唸りを上げ、今にも飛びかかると威嚇された。
「コイツ!乎代子に傷をつけた卑しいオンナ!もう一回撃ち抜いたるわ!」
離さず持っていたライフル銃を構える。すると舐め腐った態度でいた人面獣の気配が豹変した。 鼻にしわを寄せ、牙を剥く。やはりこの世の者でない部類だった。
「アア゛?お前が撃ち抜いたの?」
「あたぼーよ!」
「おい…」言いかけて視界がぐらついた。噛み跡から回った『毒』に意識が、あやふやになっていく。
「おえ…」
ぐにゃぐにゃに歪んでいく世界の中。一人佇む、少女がいた。それを眺めている制服姿の、幼げな自分がいる。確かにあれは自分だった。
「…京子?」
振り返った顔は分からない。刃物が刺さっていた。京子?誰だ?それは──
「螟ゥ蛻?k縲∝悄蛻?k縲∝?譁ケ蛻?k縲∵焔縺ォ蜈ォ驕輔?∝慍縺ォ蜊√?譁?ュ励?∫ァ倬浹縲∽ク?繧ょ香繧昴?∽コ後b蜊√?縲∽ク峨b蜊√?縲∝屁繧ょ香繧昴?∽コ斐b蜊√?縲∝?繧ょ香繧昴?∝聖縺」蛻?▲縺ヲ謾セ縺」縺ヲ縲√&繧薙?繧峨j」
いきなり、理解不能な言語を吐き出しだ陰気臭い女性に視線が集まる。
「はぁ??なぁに?ふざけてるの?」
「險ア縺輔↑縺…」
頭が重たいのか、ガクリと横に項垂れたまま彼女はのびるに手を伸ばした。




