しっちゃかめっちゃか
コイツの口から病院というワードが出るとは、と乎代子は乾いた笑いを漏らした。
都市伝説通りなら、廢なるモノは衰えたり、物が腐ったり、 人が傷や病気のため役に立たなくなる。
未知の病原菌を有していたのなら、現代医学は役に立つのだろうか。
消毒液で清めたとしても、やがてゾンビ映画のように体が蝕まれて死に至り、人でなくなるかもしれぬ。
(馬鹿だな。何回も、首を突っ込んで)
乎代子は自らの習性を呪う。だが、幾度となく命の危機があれど、ここまで追い詰められただろうか。
今回は相手が悪かった。パビャ子と同じ部類には、どうにもならない。手建てがないのだ。
しかし諦められない。自分は幽霊を探している。
──私の根本が、残影を探してさまよっている。
パビャ子が手を貸してくる。よろけながらも、土や草を払った。
「町に降りようよ」
「いや、山を経由して道に出よう…国道にたどり着けば此岸にたどりつくかも」
「え!なんで!」
「見てみろよ。霧なんて、どこにもないじゃないか」
木々から覗く町並みは快晴の空の下、晴れ渡りよく見えた。
濃霧が立ち込めているようには見えない。
「町に降りたら電波障害を起こしているアレに囚われる気がする」
「…山が狙っているかもよ」
「は?」
「この山、蓋がなくなって中身が漏れだしそうになってる」
パビャ子は真剣に、木々に蟠る闇を見た。
「元から何かしら居たってのか?」
「フスが山の支配者を腐らせたから、蓋が消えたみたい」
『蓋』が何かは分からないが、町の人らが言っていたようにこの山は良くない。七人も人を食らう山を、普通の場とは言えない。
異様な場を完全に人が理解する事はできない。『支配者』がなんであれ、フスと山に巣食う何かに気をつけなければならなくなった。
──パビャ子の発言が真っ当ならば。
「パビャ子、お願いがある。私を外に連れて行ってくれない?」
「ええ〜っ。やだ」
「んのれェっ」
「じゃあさぁ、ご飯奢ってくれる?たくさん、美味しいのくれる?」
「チッ…ああ」
「…じゃあさ」
茶色の瞳が怪しく光り、危うげな双眸が細められた。憎らしいと乎代子は睨め付ける。憎らしい。奴は卑怯だ。「乎代子の」
地鳴りがして山が悲鳴をあげた。二人はなんとか倒れないように、体勢を整える。地震では無い。
断末魔だった。




