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虚無なありきたり 〜別乾坤奇譚〜  作者: 犬冠 雲映子
キリトリセン(フス編)
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う え

「下山なんかするかァぁ〜ばーか」

 乎代子は無線機をポケットにしまう。世界から遮断された空間にわざわざ出向く馬鹿どもにはなりたくなかった。

 異なる世界がある。山と町が、分断された。

 フスが支配する世界と、何かが潜む世界。

 どちらかが安全かなどもう関係ない。現世とやらに近い場に留まるだけだ。

「銃とか、…他に役に立ちそうなモンを貰おう。護身にはなるだろ」

 腐乱死体から容赦なく弾薬や猟銃、他サバイバルに役立つ物を剥いでいく。

 パビャ子は猟銃を手に楽しげに眺め、担いだ。

「LET'S!ハンティングターイム!」

「ハァ…」

 やれやれ、と陰気臭い顔をさらにゲッソリさせて、五感を研ぎ澄ます。変に静まり返った山でそよ風が草木を揺らす。気配がない。生命力のない、不自然な状態。

 パビャ子が手慣れた流れで、いきなり発砲した。サイレンサーのない爆音が静寂を切り裂いた。

「あは!狩りごっこする気ぃ??」

「いるのか?」

「私だよ!パビャ子!あの時会ったよね?!」

「おい…」

 茶色の瞳は獲物しか見ていない。仕方なく丸腰で同じ方向に銃口を向けた。狩猟用ライフルを撃った経験なぞない。とにかくトリガーに指をソッと添え、木々の合間を睨みつけた。脳内にある狩猟のイメージ。いつでも撃ち抜けるように。

「お話しよーよ!アナタと仲良くなりたいの!」

「…バカ!挑発すんな!」

 獣には必ずや視線や気配があるはずだ。フスという生き物から発する気を読め。雑念や雑音が、神経を逆立てる。

(無理だ。ただの、一般人には狩りなんて…)

 パビャ子が確実に、スナイパーの如く研ぎ澄ました手さばきで再び発砲した。反動でわずかに腕があがる。

「ウガアアアアア!」

 草藪から脳天を撃ち抜かれたフスが飛び出してきた。歯をむき出して色素の薄い双眸を見開き、乎代子へ一直線だった。

 リクルートスーツを来た『人食いの化け物』に、乎代子は動揺する。

 無意味名 パビャ子よりは色素は抜けていない茶髪は無造作に跳ね、爪は血に染まって汚らしく、皮膚は土やらで煤けていた。性別は分からない。痩せこけ、骨と皮だけになった形相は悪鬼のようだった。

 人だ。

(──パビャ子の同僚?!)

 感情のエラーで予期せぬ動きをした指により、暴発した銃が弾薬と共に手から離れていく。スローモーションで乎代子は咄嗟に喉を庇った。

「ぐえっ!」

 腕を噛まれ、お互いもみくちゃになった。

「ちょ、ちょ、私!私がいるじゃん!」

 ゾンビに襲われた状態になっているのに関わらず、パビャ子は不満そうに割って入った。

「お前の同類なら早く言えや!」

 突き飛ばして、噛まれた傷口を見やる。本当にゾンビに噛まれたかの如く、歯型がついて血が滲んでいた。

「う、グ!ガアア!」

 脳天の傷など気にせずに、フスはまたかぶりつこうとしてきた。「もしかしてお腹すいてンの?」

「い、いや、狂犬病に感染してるとかじゃないよな…」

 謎のウイルスに感染しているのなら、いづれ自らも人を食うようになるのだろうか…と乎代子は冷や汗をかく。

「…ポイズンリムーバー出してくれ、あとガーゼでも包帯でもいいから!」

「あっ!どこいくの!」

 奇声をあげながらフスが逃げていくのをパビャ子は手を伸ばし、やめてしまった。とにかく今は彼女を治療しなければ…。

「えーと、えーと」

 猟友会の一人が所持していた救急キットからポイズンリムーバーを渡すと、さらに消毒液と包帯を見つけた。使用するや所持していた天然水を腕にかけ、念入りに消毒し始めた。

「まだフス、追う?」

「…やめる。だってアレはアンタの、仲間だろ…」

「え?仲間?…アレが?」

 空虚な響きにパビャ子は不格好な、変な笑みになる。

「乎代子は仲間?」

「はァ?それどころじゃないだろ?!…仲間、というか、今は運命共同体だ」

 今は、にアクセントをつけて彼女は茶髪の気の狂った女性をみやる。

「だよね!じゃ、とにかく病院行こ!」

登山は生涯学習などでしました。若い頃(?)は車山や高尾山など登ったりしました。景色や達成感は好きです。

ただ毒を持った虫や野生動物が怖くて、というより自然が恐怖で私は山を眺めてるのが安心します。

だから知識は素人です。登山用品が売っている店でウロウロするくらいです。

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