ずれている
「アレは全てを食らう気だよ。山を腐敗させ、報復として町まで」
「奴にそんな力があると?」
幼げな声帯を持つ、サリエリ・クリウーチは「ん〜…」と悩ましい唸りを上げた。
「乎代子の隣にいるパ?バラムツ?パビー?より弱いから、全てまでは…それはできない。人を食い、チカラを増すアレらとはまた部類が異なるからねぇ。でも、とにかく今は人里に下ろさないで」
「バラムツじゃないですぅ!パビャ子ですぅ〜!」
隣にいたパビャ子が抗議するも、あちらは気にもとめていないようだ。
「家の近くに、猟友会の遺体がある。無線機を拾って、町の人に避難するよう指示してほしい」
「…シャアナイなぁ」
だるそうに彼女は家を出る。こちらはそこまでゲーム内の主人公の如く、指示役の誰かに従う性分じゃない。
飼い犬が居たのか。庭で腐敗し、骨が肉から覗いている。貪られた様子はないが朽ち始めている。
フスの異能とはそれなのか。
納屋の近くに、七人の腐乱死体が転がっていた。生憎ドラマや警察が手にしているお馴染みの、業務用無線機は腐っておらず、パビャ子に渡し、自分用にも手に入れておく。使い方は分からないが文字が書いてあるから何とかなるだろう。
「サリエリさん。フスの位置は分かりますか?」
「それがね〜、電波障害かな。うまく特定できない、誰かが干渉してる。気をつけて」
それきり通信は途絶え、乎代子は無線機を起動した。
「もしもし?」
「もしもし?オメェ!田中じゃあないな?誰だ」
「猟友会の皆さんを発見しました。残念ながら、全滅です」
「…そうか。それより、アンタらはどこにいる?何でその無線機だけ通じるんだ?」
向こう側の人々のざわめきがノイズ混じりに聞こえる。
「停電が起きてんだ。電話も、GPSもダメなんだ。それに濃い霧が出てる」
「霧?」
「霧なんて出てないよ、おじちゃん」
パビャ子が無線機から横やりを入れた。異常は起きているが空は晴れ渡り、雨の予感はない。
「…一旦、下山してくれ」
彼は静かに告げると、無線機を切ってしまった。




