たべおわったあと
二人は整備もままならぬ小道を行く。劣化してはいるものの舗装された道はまだ使用されているらしく、たまに落石注意の標識があった。
パビャ子は陰鬱とした生い茂る木々──植樹林から差し込む、わずかな木漏れ日を仰ぎながら、自らが引き返せない場へ向かっているのを察知した。
この森は死んでいる。
誰も、手をつけていない。森林放置というやつだ。
「いいのぉ?あの人たち怒ってたじゃん」
「このまま道を真っ直ぐ行くと、奴の実家がある。そこで何も無かったら、引き返して家族共々、お祓いで何なりすればいいさ」
「うん…まぁ、そんなモンだよね」
追手が来ないのを確認すると歩幅をゆるめ、分かれ道を右に曲がった。私道になるらしく、黄色い棒があった。二人は『例の熊』に気をつけながらも道を進む。
動画配信者となった山田の家業が何だったかは知らぬが、途中、軽自動車が三台停められているのを見ると何世帯かで住んでいるのだろう。
「あ、あれ」
変哲もない古民家を改装した住宅があり、薄明かりがカーテンの隙間から見えた。人がいるようだ。
乎代子は警戒しながらも、玄関のチャイムを鳴らした。
「すいません。山田さん」
返事はなく。僅かに、中からテレビの音だけがする。嫌な予感がして戸を開けると、強烈な腐敗臭がムッと押し寄せてきた。
「山田さん?」
土足のまま家に上がり、リビングに向かうと女性と思わしき物体がフローリングに伏している。背中を食いちぎられ、内蔵が露見していた。
そして強烈に腐敗している。まるで何週間も放置されていたように。
しかし、カレンダーには一昨日までヘルパーさんが来ていた記録が残され、息子の葬儀が済んだのか遺影が仏間から見えた。
「…他の人は?」
「階段に誰かいる」
パビャ子がドタバタと階段に走っていく。後を追うと、まだ若い女性と思わしき遺体が苦しげな表情を浮かべたまま転げ落ちていた。
首を噛みちぎられた跡があり、またひどく腐敗している。
二人は念の為、生存確認を行った。祖父、旦那、妻、姉。皆、無惨な姿になって息絶えている。
蝿すら集らぬいような腐乱死体に、乎代子はフス(廢)を連想した。いきなりスマホに着信が鳴り響き、ハッと我に返ると『不明』と書かれた表示が出てきた。
「もしもし」
「もっし。私は天から使わされた救済者、サリエリ・クリウーチ。貴方は洞太 乎代子。急ぎで、頼みたい事がある」
「パビャ子の知り合い?」
「まー、そんなんだよ。フスが、山を降りる前に阻止してほしい」
向こう側では機械が唸る音がする。どこか、存在はしているようだ。




