むかしのしりあい
パビャ子 楽しく生きろよ…。
無意味名 パビャ子は廃墟化したアパートの階段を登っていた。サビ付き、今にも底が抜けそうな階段が嫌に音を立てる。
「よお。パー」
「パビャ子!私はパビャ子っていうの!」
声をかけてきたのはずんぐりとした獣の肢体を有する化け物だった。
「へえ。かわいい名前じゃん。アタシも至愚っていうようになったんだ」
「ふぅーん。お互い変わったって事かぁ」
ニヤニヤとパビャ子は彼女に言う。
赤毛の女性を模した頭部はそれをつまらなそうに見つめた。
「変わんないなー。アンタはさ。でも手篭めにしてるオンナはどうよ?美人になった?」
「む!なにそれ!」
アパートの一室に顎をやると、至愚はほくそ笑んだ。
「アタシにも会わせてくれよ」
「やだね!絶対イジワルするっ」
「しないさ。人間には優しいんだよ、自分はさ。アンタと違ってね」
ヨタヨタとアスファルトに傷跡をつけて、彼女は道を戻りだした。
「あまり束縛するんじゃないよ。嫌われるから、そーいうの」
「余計なお世話ですぅ!シッシッ」
早くいなくなれ、とジェスチャーするもいつの間にか半人半獣は消えていた。あるのは不気味な茜色の夕日だった。
血みどろになった街並みを眺め、パビャ子はにんまりする。
血の色は好きだ。乎代子も、きっとこの赤く深い空の色は好きなのだ。




