いみやまへむかおう
「見た感じ、普通の田舎町ですね。鎮守社もありますし、悪い類が支配している様子もない」
「そーだね。けどさぁ、怪しいのはあの山じゃないかな?」
パビャ子が指さしたのは変わった様子は見受けられない低山だった。
「ほら、ネットで言われてるじゃぁん。忌み地だの、忌み山だの」
「ああ…禁足地みたいな」
「そーそー。あそこ、それだよ」
名も知れぬ低山はどんよりしている訳ではなく、春の日差しに照らされている。長閑な景色に鳶が鳴いている。
──アレらが大好きな"悪い"エネルギーが流れる川がある。
あの山が引き寄せているのか。
「フスが居るかも」
「…アンタと同じ類なのに、分からないのかよ」
「当たり前だよ!乎代子さんは、同じ故郷の人を一発で見分けられるの?」
「いや、アンタらスーツ着てるし」
「じゃー、同じ学校の人で同じ学年で、同い年って見分けられるん??」
「あー、はいはい。何となく分かったから」
めんどくさいと、乎代子は先を行く。
「乎代子、メ!だからね!後でえっちなお仕置するからぁ!」
「キショ」
寄りかかってくるパビャ子をどつきながら、あの山へ向かう。
「参ったなぁ…猟友会も消息を絶ったなんて、県に連絡した方がいいですよね」
交番に法被をきた自治体の人たちらと警察官が何やら話し合っていた。つかさず物影に隠れ、話を盗み聞きする。
「お巡りさん。何とかしてくださいよ」
「いやー、遭難届けを出しましょう。それから…」
「遭難?アイツら、山を良く知ってんだぞ!しくじる訳ないだろう!」
「そうだ!俺たちは昔からこの土地で生まれ育ってきたんだ!アイツらもそうだ。迷うわけない!熊にやられたんだ!お巡りさん、援護をお願いします!」
老人たちが、まだ若い巡査に食ってかかる。
「いやいや、熊だって一頭でしょう?それだけで、七人もやられるなんて」
「あの山ァ、呪われてんだ。良くない山だ。だから七人で登んの止めとけって言ったのに」
一人の老人が静かに言った。
「非科学的です。とにかく…」
てんやわんやする人たちに気づかれないよう、二人は忍び足で通り過ぎる。
七人。七人ミサキを彷彿させる人数だ。西日本で有名な話だが、こちらにも適応されるのだろうか?
(良くない人数で登ったのか…)
この地域も伝承や口承が伝わりにくくなってしまっているようだ。乎代子は地図アプリに記された道筋を進む。
「あの人たち以外、誰もいないなんてさ。オカシクない?」
「熊が出るって注意喚起されてるんじゃないか?」
「んー…」
茶色の瞳を民家に向け、意味ありげに彼女は逸らした。
二人は山に向かう。フスに会えるかは別として。
山をよく知らない平地民です。山は異界観があるので遠くで眺めて調べているのが好きです。




