しょたいめん
つまらない人生に、一色──鮮やかな赤色が咲いた。それは綺麗な花だった。
赤。情熱。血潮。正義。
眠たげに目を擦り、白紙のノートを眺める。授業なんて聞く気もなかった。成績は悪いし、運動も秀でていない。
教師の覇気のない声を聞き流し、外を眺める。白昼の景色は八重岳 イヨ子にはモノクロに見えた。
極力目立たないように、髪やスカートも校則通りにし、クラスでも誰とも話さない、厄介事にも首を突っ込まないよう気をつけた。
顔を覚える気もない。マネキンが教室にあふれているみたいだ。
イヨ子は放課後になるとそそくさと帰宅し、趣味に没頭する。オカルトサイトに羅列された怪談や噂を読むのが、唯一の楽しみだった。
その中に、気になる──割と近所での怪談話があった。赤い布が電信柱に巻かれている。それは毎回誰かが外しても、巻かれる。
誰かのイタズラか。それか、底知れぬ化け物の仕業か。
「行ってみよ!」
目を輝かせ、足をぶらぶらさせる。廃墟に侵入するよりも手間がかからない。両親が寝静まった頃合に出かければバレないだろう。
夜中。懐中電灯を手に、ネットに書き込まれた場所へ向かうと赤い布が巻かれていた。
興奮した。実際に見られるなんて!
デジタルカメラで何枚か撮影し、赤い布に触れる。現実に存在している。
「すごい、すごいよ…」
「何してんのぉ?」
背後から声をかけられ、しまったと背筋が凍った。警察なら補導されてしまう。
振り返ると、茶髪の女性がニヤニヤしながら立っていた。リクルートスーツ、という服か。不自然だが、警察官でないとホッとした。
「この布、一ヶ月前から巻かれてるよね〜」
「知ってるんですか?」
「うん。私、そういうの好きだからさ!ついつい見に来ちゃうんだよね!」
明るい口調で彼女は言う。
オカルトが好きな人に出会えるなど、初めてだった。
「ソレ、もらっちゃいなよ。多分、怒られないよ」
「え、でも…」
「外してんの。私なんだ。ほら、気味悪がられてるから。ボランティアっていうか」
やけに茶色の瞳を悪戯っぽく細め、彼女は言ってるそばから外し始めた。
「え、あの」
「じゃじゃーん!あげる!」
プレゼントされ嬉しさでこちらも笑顔になる。
「ありがとうございます!」
「じゃ、若者は帰りな〜。夜道は危険でいっぱいだぞ〜」
「あ、は、はい。あの八重岳 イヨ子って言います」
「私、またイヨ子ちゃんに会える気がする」
ニカッと破顔され何も言えなくなる。八重岳 イヨ子は頷くと、家に向かった。
リクルートスーツの女性はそれを見送ると、ニヤリと怪しく笑う。
「す・き・も・の」
過去編というか、回想というか。
パビャ子さんとイヨ子さんの初めての出会い回です。




