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虚無なありきたり 〜別乾坤奇譚〜  作者: 犬冠 雲映子
キリトリセン(フス編)
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きひされたけもの

 フス──廢と呼ばれた人の形をした獣は霧深い森の中で、土に埋めてあった死体を掘り起こし、腐敗し始めた部分を食べ始めた。

 ハイキングに来ていた初老の男性。運悪く彼はフスに襲われ、首を引き裂かれた。

 この獣にはそのような事情など必要ない。獲物を仕留め、貪るだけだ。

 咀嚼音だけが森に響く。霧に覆われた森は死に始めていた。

 野鳥も野生動物も、この獣の瘴気にあてられ死んでしまい、腐り出した。

「居たぞ!あれだ!」


 霧の奥から猟友会の一人が叫んだ。ハイキングに出かけた県外の男性が行方不明になった。血痕が残っていた事から、熊に襲われたのではないか、と町では見解した。

 急遽駆り出された猟友会は不自然に視界を邪魔する霧に注意しながら、山を探索する。

 今までこんな濃霧、出くわした事がない。昔から曰くがついた山ではあるが──。

 野鳥の残骸が地面に転がっている。毒ガスでも出ているのだろうか?

 冷や汗をかきながらも辺りを見回していると、奇妙な気配と肉を咀嚼する音がした。

 そこにいた皆が緊張し、銃を構える。熊ぐらいの影が何かを食べている。もしかすると行方不明者かもしれない。

 静かに近づいて、散らばっているリュックサックやらで確信する。

「居たぞ!あれだ!」

 誰かが叫び、銃を発砲した。けたたましく響く爆音。

 捕食していた生物に、確かに、当たった。影が一瞬揺らめき、彼らは仕留めたと安堵する。

「ぐ、ウウ」

 人に似た唸り声がして、獣の鋭利な視線がこちらを見た気がした。撃たれたのに何故、まだ動いている?

 いや、急所を外したのだろう。

 何発かそれぞれに撃ち、標的の死を悟る。

「本当に熊だよな?人に見えたんだが…」

「人な訳ないだろが!」

「まあまあ、近づいて確認しましょう」

 焦りながらも足を踏み出した瞬間、隣にいた同僚が何かに飛びかかられて倒れた。血が吹き出し、異常事態だと気づく。

「う、うわあああっ!」

 悲鳴をあげ、彼らは散り散りになる。壊れ始めた山で人間は無力な生き物に成り下がっていた。

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