たのしぃえんそく
三月下旬のある日。
春先の暖かな日差しが柔らかい。電車から降りると草木が発する、春らしい匂いがした。
洞太 乎代子は、地図を見ながら駅のホームを見渡した。山肌と、まばらな民家。のどかに野鳥が囀っている。
関東地方からさほど遠くない山間地帯。スマホに記された目的地と現実を確かめて、異変がないか目ざとく観察する。
一見、変哲もない昼下がり。
「オッス!」
パビャ子が一足先に、駅舎の待合室に座っていた。誰一人いない空間で満面の笑みでこちらを迎えいれる。
「フスの気配は?」
「しないねー。どこかでお昼寝してんのかなぁ」
呑気な感想を口にして、彼女は窓の外を見た。
「アレがウヨウヨいそうな場所だね」
「分かるんですか?そういうの」
「うん。土地自体がそういうの引き寄せやすいの、分かるんだよ。ほら、そういう地脈みたいのの上にあるから」
そういう地脈?
「龍脈、みたいなものですか?」
龍脈とは大地に流れる膨大なエネルギーの川と言われている。それが確実にあるかは謎だが、この世の者でない部類にも『そういう地脈』の言い伝えがあるのか。
「アレらが大好きな"悪い"エネルギーが流れる川があるんだぁ。人間にしてみれば毒だけどさ」
「ふぅん…」
「この町は人が少ないからわかりやすいや。逃げちゃったんだよ。良くない事が頻繁に起こるから」
「過疎地域だとしか思えませんが」
「まーまー!ほら!行きましょう、お姫様!」
「やめろ」
急かされて仕方なく駅舎を後にする事にした。
フスちゃんの話の続きになります。
モデルとした地はありません。何となく頭の中にある原風景を書きました。




