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虚無なありきたり 〜別乾坤奇譚〜  作者: 犬冠 雲映子
キリトリセン(フス編)
52/162

らちゅう

「ミスさん。外出しないんですか?」

「あ…私、…何もする気が起きなくなってしまって」

 六畳間の、何も無い部屋でミスという女性は膝を抱えていた。あれから一睡もできずに、震えていた。

「なら、僕と散歩しませんか?」

「えっ?」

「少し季節も進みましたし、気晴らしに空でも歩いてみませんか?」

「そ…ら?」

 空って歩けるっけ?

 ミスは虚ろな目で笑顔を眺める。目の前にいる好青年の南闇という青年は喜怒哀楽がないように感じる。

 笑顔だけ貼り付けた人形みたいだ。

「空って気持ちいいですよ。風も爽やかだし、鳥も飛んでいて、景色も広大で」

「は、あ…」

「とにかく、歩いてみましょう」


 言われるがまま、ミスは空を歩いた。魔法のように二人で宙に浮いて、まるでガラス張りの床を歩くが如く簡単に進む。

 風がびゅうびゅうと頬を横切り、久しぶりに新鮮な空気を吸った気になる。空が青い。雲が近い。

 街が──小さい。

「偽物みたい…」

「でしょう。まるで虫かごの中を見てるみたいな気持ちになりませんか?」

 小さい頃、両親とタワーに登り、ガラス張りの床を見た時──下にいる人がアリのように見えた。

「た、確かにアリみたいで、ちっちゃいです」

「ええ。とても汚らわしい」

「え?」

「虫って汚いじゃないですか。地面にいたり、トイレにいたり、不衛生じゃないですか。あれらも同じなんです」

 善良なまま、満面の笑顔のまま彼はいう。面接官に長所を語るように。

「は、ハハッ…そ、そうでしょうか」

 苦笑いが出てしまう。(どこかの敵役みたい…)

「ミスさんもいづれ分かりますよ。不衛生な、汚い存在だって」

「は、はあ」

 理解はできなくもなかった。人間には獣びた不条理な側面や、知能があるゆえの意地の悪い心がある。

「僕は不衛生であるのが嫌いなんです。まあ、動物も同じなんですけれど、ね…」

(よく分からない…)

 南闇は笑うだけでそれ以上は言わない。空を見渡してやはり満足そうだった。

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