きひされるさる
フスは『廢』という。
廢とは本来すたる、と読む。物事が衰えて行なわれなくなる。 衰えたり、物が腐ったり、 人が傷や病気のため役に立たなくなったり、失われたりする──そんな意味が込められている。
その化け物は人間の姿をしているが、人を喰らい、時には災いがふりかかった村を食い潰すとされてきた。正体は猿の妖怪だとか、零落した神ではないかとも噂されているとも。
「いたな。そんなヤツ。噂では聞いたことがあるけど」
洞太 乎代子はスマホをタップしながら、眉をひそめた。
「てかさぁ、レア物のアレにどうやって会うつもりなんだよ」
「レア物なん?」
パビャ子はむしゃむしゃとコンビニで買ってもらったサンドイッチを貪り、意外そうにする。
「都市伝説になるくらい箔がついたアレはなかなか世俗に出没しない。…もう一度、発見された団地に行ってみよう」
「なになに?探偵ごっこ?!」
ワクワクと目を輝かせた茶髪の女性に呆れながら、オカルト板を眺めていた。団地の噂は流れている。場所は伏せられているが、パビャ子がいるのならたどり着くだろう。
「そ。お礼に唐揚げ奢ってあげる」
「よっしゃー!探偵しよ!!!」
「黙れ」
真夜中の市街地は静まり返って、人っこ一人歩いていない。たまにいるのは野良猫くらいで完全に寝静まっている。
警察による現場検証は行われ、内装も清掃されているだろうか。噂が出回ると買い手がつかなそうだが、家主には死活問題だろう。
線路沿いにある、団地はあれから騒がしくなったのに関わらず、閑散としている。
二人はなるべく足を立てずに事件があった棟の階段を登る。薄暗い蛍光灯がコンクリートを照らし、陰鬱としている。パビャ子は抜き足差し足忍び足で「ここだよ」とごく普通の扉を指さした。
唐揚げ一つで不法侵入を手伝ってくれるとは。どこまでも頭のおかしな奴だ。
乎代子はドアノブをゆっくりと捻る。当然、施錠されていた。
仕方ない。ピッキングするための道具をポケットから取り出して、繊細にいじくっていく。
「わ、わ。ドロボーだ」
「うるさい。生きてくため」
鍵が開き、団地らしい扉を開けると薬品の匂いがむわりと漂ってきた。まだ死臭を消すための薬剤が消えていない。
家具も、何もかも証拠を失っている部屋を見渡し、仕方なく小型の懐中電灯で散策する。
「あ、押し入れ。なつかしー。家庭的」
パビャ子が半開きになった押し入れの襖を開け、あ、と上を見た。「なんか、臭い」
「あ?臭わないけど」
「ねえ、開けてみて。板」
「は?」
なぜ、お前に指図されなければならないのだとイラつきながらも、押し入れの二段目に身を乗り出し、天井に力を押し上げた。
「うわぁ〜〜」
もっさりと髪の毛が、ずるりと垂れてきた。
「おい。どうすんだよ、コレ」
フスちゃんのモデルは正確にはないんですが、洒落怖のヒサルキが一つにあります。
類人猿だし、まあ…猿(汗)




