ぅめる
乎代子は山登りなど好きでは無かったか、ふとむ蔵の線で行ける範囲の低山へ赴く事にした。
現実逃避と言えばそうだが──幽霊に会いこうと思った。無理やり明るくしようとする春先の、世の中に疲れ果てた彼女は着の身着のままやってきてしまった。
自殺するのなら、用意周到にロープやらをリュックに詰め込むだろうが、それすらもせず、山へ向かった。
幽霊は山の中にいるのだろうか?
線路を乗り換え、有名な場所へ誘われる。
山は神聖な異界でもある。なら、山は怒るだろうか。
穢すな、と罵倒するだろうか。
駅につくと登山客がズラズラと人気の山へ歩いていく。乎代子は反対に人気のない、名も知らぬ山へ足を運ぶ。
「乎代子!なにしてるの?」
パビャ子がいつの間にか背後からやってきた。「ついてきたんですか?」
「ストーキングしてきたんだよ」
ニコリと表裏のない笑顔にため息をつく。
「暇人だな」
「暇人って?乎代子もじゃん!」
「山を登りましょう。ちょっとだけ、森林浴して帰りましょうよ」
「ふーん。イイケド」
二人で人気のない山の獣道を辿る。
「山って方向が分からなくなるよね。全部木なんだから」
「まあ、木がないと山って感じしませんね」
「アハハ!変なの!」
針葉樹林の景色に人が混じっているのに気が付き、乎代子は身構えた。それは男性だった。幽霊じゃない。
生身の人間だった。
軍手とシャベルを装備して、こちらをジッと眺めている。リクルートスーツをきて、若い事から就活中の大学生にも思えた。
「こんにちは。おふたりとも、何をしに?」
善良な笑顔を浮かべた彼はこちらへ声をかけてきた。お手本のような好青年は手を振る。
「こんちわ!!登山してるんだぁ〜!オニーサンは何をしてるの?」
「登山ですか。それは素敵ですね。僕は埋めていました」
「は?埋め…?」
明るく受け答えする彼らを交互に見やりながら、陰気な女性は訝しむ。
「え!埋めてるのぉ!」
「はい。僕は埋めるのが好きなんです。こちらは登山客です。流行りの山ガールです。こちらは迷い人として捜索されている老人です」
「…ああ、アンタ。アレか…」
思考停止して綺麗にならされた彼の足元を観察する。「埋めてから、腐ってから食べるのか?」
「まさか!骨が好きなんです。洗骨してから頂くのが、清潔でしょ」
「わんチャン??」
「はは!確かに!犬かも知れません。崩壊しつつある社会の犬です」
「へー?よく分かんないけど大切にしてね!」
パビャ子は珍しく懐から名刺を取り出し、彼へ歩み寄っていった。
「あ、名刺。持ってないんです。南闇と言います」
「私は無意味名 パビャ子。こっちが乎代子」
「よろしくお願いします」
南闇という青年は「では、また他の場所へ用事があるので」と早速と山の斜面を上がっていった。
幽霊よりタチの悪い部類に出くわしてしまった。他の場所にもそれらは埋められているのだろうか。
「はー…帰ろ」
「エッ!帰っちゃうの?!」
来た道を引き返そうと乎代子は踵を返した。空元気に振る舞う世間に潜んでいる方がまだ気分が良かったかもしれない。
「帰ったら焼肉食べようよ」
「いいよ。それで」
パビャ子の笑顔に呆れながら彼女は陽の当たる方を見据えた。
南闇くん再登場回になります。




