らくぇん
カラスがギャアギャアと耳障りな鳴き声で屋根の上に集っている。ある住宅地にある廃屋に近しい戸建て。蔦が絡まり鬱蒼とした外見は子供たちに『お化け屋敷』と呼ばれていた。
乎代子は玄関のドアを強引に開ける。無断で侵入しているが、確かめたいものがあった。
死に目に現れるという楽園の噂を。
この家には足を悪くした老人が一人住んでいたという。家族を事故で亡くし、無気力になったのか。荒れ放題の庭やゴミで埋め尽くされた玄関先。
誰も彼の事を気にせず放置していたのだから、独居老人が死しても気づかないだろう。
乎代子は分かる。人が死ぬ気配が。
よく通る道の途中にある家だった。ふと、家主が死んだと察知した。「確かめてみたい」
極楽浄土か。それとも天使の迎えか。
死んだ者が最期に見る楽園とやらを、目にしてみたかった。あわよくばそちら側へ行ってみたいとも思っていた。
住宅内はやはり荒れ果て、衛生状態は最悪だった。乎代子は靴を脱がず土足で家に上がる。
遺体はどこにあるだろうか?
異臭を放つゴミ袋を踏みながらリビングと思わしき部屋にたどり着いた。
「いたな」
ゴミの渦の中で息絶えている老人がいた。その前といえる場所にドアが中に浮いていた。
「またどこ〇もドアか…」
ある雑木林で見た景色にデジャブを覚えながら、前回に開いた向こう側の景色を観察した。
どこかの高原らしき、美しい光景が広がっていた。鮮やかな花々が咲き乱れ──そこら中に腐敗した死体が転がり、ハエが集っている。
死に際であちら側にたどり着けた者たちだろうか?
だとしたらこの家の老人はたどり着けずに息絶えてしまったという事である。
(私もあちら側にいけるのだろうか)
ふいにわいた興味にかられて、ドアに向かう。高原の爽やかささながらにそよ風が部屋にもれている。ゴミの山の上に立ち、足を踏み入れようとした。
が、荒い呼吸と共にドアが乱暴にしまった。「チッ」
消えていくドアに嫌気がさし、乎代子は家から出る事にした。
(アレは入口で死人が入るのを見ていやがった)
夕暮れ時、住宅地は宵闇に沈んでいく。ため息をつくと彼女は帰路についた。




