かなしみ
パビャ子は河川敷に生い茂る森を歩いていた。誰かがいた気がして振り返る。
「だれえ?」
返事は無い。ざわざわと木々の葉がざわめいている。
「木の実をとろうと思ってたのに」
空腹から逃げるために野生の果物か何かをとろうと迷っていた。誰かに見つかったら怒られるのは覚悟の上だったが…。
さっきのは人ではない。アレだ。
「栗とかないかな〜。山葡萄とか〜」
河川敷に都合のいい果物が自生しているはずがない。諦めて食べられる雑草を集め、帰ろうとした。
また気配がした。
「お姉ちゃん。お腹がすいてるの?」
「あ、坊やだったの?」
子供が不安げにこちらに近寄ってくる。
「お腹すいてるんだけどお金が無いんだわ〜」
「そっか。僕と同じだね」
「坊やもお腹すいてるの?」
頷くと、親に置いてかれたと男の子が言う。「あらら、僕。お家は?」
「この川の近くのアパート」
喧嘩でもしたのだろうか?
「何でか森から抜け出せないんだ。どうやったらお家に帰れるかな?」
「ああ〜、そっか。じゃあお姉さんがお巡りさん連れてくるよ」
「本当?!ありがとう!」
男の子は嬉しそうに顔を輝かせた。「じゃあ、川の方で待ってるね!」
「うん。じゃあ」
リクルートスーツの女性、パビャ子は近くの交番まで歩いて警察官に事情を話した。
仕方なさそうに警察も了承すると、二人で向かう。
「あそこ、迷うような場所じゃないんですけどねえ」
「でも迷ってるって言ってました!」
「怪しいなぁ」
小さな森にたどり着くと、子供の姿はなかった。川の方にいる、と彼は言っていた。
「どこにいるのー?」
川岸にスーツケースが置かれていた。それを見た警察はわずかに気色を変え、パビャ子を見る。
「開けてみます?」
スーパー堤防の内側で、子供の遺体が見つかった。犯人は母親だった。
事件が何かと起きやすい場所である河川敷だ。近くの住人たちは怖がったが、世間やメディアほど騒がなかった。
乎代子はスマホに表示された記事を見て、パンを貪る茶髪の女を見やる。
数週間ぶりにありつけるまともな食事に、ガツガツと食べる様は犬みたいだ。
流れていく記事は忘れられていく。ゴシップも、事件も。留まる事は無い。
忘れられていく。
(世の中とはそんなもの、か…)




