いつも
純白のスーツをまとった男性は、紙タバコをふかしながら通りかかった女性に声をかけた。
「お茶してかないか?」
陰気臭い顔をした女性は無視すると歩き出して遠ざかっていく。「おい、つれないな」
「アンタが絡むととんでもない事になる」
「いや、今回はただのお茶だ」
乎代子はブロンドヘアーを束ねた男の顔面を睨む。憎らしいほどに甘いその相貌はニヤリと歪んでいた。
「お茶代、アンタが持てよ」
「で、なんの用ですか?」
アイスフロートを頼み、アイスを食べていると男はスッと天使の輪を召喚すると乎代子に投げつけた。
首に収まったかと思いきや弾け飛び、彼女はため息を着く。
「いきなり技かまさないでくれます?」
「ニンブスに召されないのはお前とその他だけだよ」
「その他もいるんですね」
彼は薄ら笑いを浮かべ、困ってみせた。
「天使の真似事も悪趣味で素敵ですよ」
「それ褒めてなくねえか」
「ラファエルさん。なんの用ですか?」
「あのキチってるオンナと別れろ。キチが伝染るぞ」
キチってるオンナ──通称、パビャ子の事である。
「別れるのも何も。彼女とは付き合ってもいない訳で…」
ラファエルと呼ばれた男は、やっときたコーヒーに舌鼓をうつ。
「俺でない、他の奴らも、アンタらを認識し始めてる。危険だ」
「同業者ですか」
頷くと、懐から小型懐中電灯を取り出した。
「アンタにこれをやる。天使の聖なる、光る剣だ」
「ああ…宇宙で戦う時に使う光るあれですね」
「やめろや。まあ、そんなモンだ」
懐中電灯にしか見えないそれを観察すると、渋々彼女は手に取り、ポケットに入れた。
「アレらに襲われそうになったら使ってみます」
帰り際、ラファエルの顔もくたびれていたなと考えながら、乎代子はパビャ子の姿を思い浮かべる。
「あの人がこの街から簡単にいなくなる、とは思えないんだよなあ」
それは何だか滑稽で、笑えるような寂しいような、微妙な気持ちになった。
「環境が変わるの。嫌いなんですよね…」
そう独り言を呟き、廃墟化しているアパートに向かう。




