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しふく
目を覚ますと、一面黄金に輝く小麦に似た植物の波にもまれていた。美しい、と女性──乎代子は思った。
「乎代子」
パビャ子がこちらを見て笑う。
「ここはどこ?」
「乎代子の家だった所だよ」
訳が分からなかった。家すら、いや、人類の文明すら見当たらない。あるのは延々と続く黄金色の原っぱだけ。
「人は?」
「もういないよ」
「じゃあ」
「地球はね、死んじゃったんだって」
いつもの調子でリクルートスーツをきた女性は言う。そうか。あまり驚かずに受け入れた。
「もう何も気にしなくていいんだ!ねえ、乎代子。こっちこっち!」
パビャ子がズカズカと煌めく波を押し分けて行く。仕方なくついていくと、さらに景色が開けた場所にたどり着いた。
淡いパステルカラーの空とそれを反射する雄大な水面。海にしては凪いで、穏やかな空気が漂っていた。
「綺麗だ」
「でしょ?見せたかったんだぁ」
幸せだな、と内心気を緩めた。この夢は。
夢なのは分かっているが、こちらが現実でもいい気がした。あの世界よりこの暖かな空間にいた方が。
「幸せだね」
彼女が微笑む。




