んしらみぃぃ
「トコジラミうま!カメムシってだけある!!」
手づかみで食べているリクルートスーツの女性──パビャ子は食虫に夢中だった。
「ハッピー!!!」
「貴方、どんだけ食い意地はってんですか。これ、おにぎりです」
「あ、これは高めのおにぎり!」
ビニール袋にご満悦な様子で近くのソファに座った。
「黒電話の都市伝説、見つけたんですよね?」
「うん。団地の壁から黒電話でてきたんだって」
乎代子はスマホの画面に映し出された地図を見る。このロビーから少し離れた団地。
「案内してください」
「いいけど、大丈夫??」
「大丈夫とは?」
「管理人さんと団地の人たち、黒電話を見てから気が触れちゃったんだってさ」
「あー…」
自分の精神力が特段強いなどと言う『異能』はない。人よりも弱いかもしれない。
彼女は考えて、しばし停止した。
「気が触れたら殴ってみてください」
団地の、どこにでもある角部屋。
「これが、例の黒電話…」
部屋の中央に放置された古びた黒電話。レトロだと今なら嬉しがられるかもしれない。
「回してみましょう」
「回し方わかる??」
「多分」
適当に回すとジリリ、と電話の着信音が鳴った。「おお」
あらゆる壁の方面から黒電話のジリリと鳴る音がする。「これは初見だと気が触れますね。うるさすぎて」
「部屋中の黒電話に繋がってるって事だよね…なら、これ…」
固唾を呑んで、トコジラミを黒電話の中にねじ込んだ。
「ワープしないかな」
「えぇ…」
あれ以来黒電話は鳴らなくなったが、団地から新たな問題が起きたという。
トコジラミが無限に湧き出して近隣住民が住んでられないのだそうだ。
トコジラミ怖いっす。




