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虚無なありきたり 〜別乾坤奇譚〜  作者: 犬冠 雲映子
ンキリトリセン(ミスの決別と清楚凪 錯迷の襲来編)
157/162

よげん=しそう

サクメイシリーズの少し逸れた場所にある話です。

 夕闇に浸りながらもパビャ子は『パーラム・イター』を思い出した。

 己と酷似しながらも異能も自由奔放さも桁違いで、風のように所在なさげな人であった。あの人がかつての自分の根源だと周りの人たちの言動で薄々気づいていた。

 果たして封印されるまでパーラム・イターは幸せであったろうか?

 ──分からない。残念ながらアレも自分とは他人なのだから。

 彼岸花が広がる景色を見ながら、あれが彼岸に咲いている怖がられた花だとむしる。

 乎代子が愛してやまない、花だと。

 ある人は地獄花と言い、ある人は死人花(しびとばな)と呼ぶ。あるいはめでたい前兆とされた曼珠沙華。多数の人が不吉と忌む花を彼女は好むのだ。

 白と赤の、地面に血が染み付いたようだとラファティ・アスケラが忌々しく呟いていたのを思い出す。

 ──乎代子はなぜこれが好きなの? 

 ──乎代子は彼岸に憧れているの?

 ──彼岸花ってなんで彼岸花って呼ばれているの?

 いつもなら捨ててしまう思考や疑問を、彼岸花に託す。摘み取って眺める。赤くて燃えているようだ。あるいは血。赤い火花。

 内なる乎代子が陰気臭い顔をさらに暗くさせ、言う。


 一色──鮮やかな赤色が咲いた。それは綺麗な花だった。

 赤。情熱。血潮。正義。

 それは世の中で、花の種類の中で一層、死を象徴し、纏う花だった。

 彼岸花。


 儚げな美しさを放つ代名詞には死体が付きまとう。死の、下にいる何か。それが知りたい。知りたくて、自分は。

 自分は…。

 ──どこまで知りたくて突っ走ってきたのだろう。

 あの群生した彼岸花の絨毯の下には、不思議とたくさんの死が埋まっている気がした。確信している。

 これまでに死の気配をたくさん吸い込んできたから。


(乎代子、じゃないよね?君)

 パビャ子は懐かしさを感じて理由が少しわかった気がした。赤い血を、赤い火花を目にした事がある。

 パーラム・イターを殺めた。小刀で刺した。


 ──贄となりアイツの力を持った際にこの小刀で目を突き刺して欲しい。これはあの神社の奉納品だったもの、多少なりとも神の力が宿ってる。


(分かったよ。君は乎代子じゃない。君は、私だ)

 だから自分は、これに哀愁を抱くのだと。

「…やっと…お姉ちゃんの事を思い出してくれたんですね」

 いきなり背後から声をかけられ、パビャ子は振り返る。

「貴方たちは六ヶ月前に死期が分かるんでしたっけ?」

「え?え?どういう事?」

「意味が分かってないようですね。私、分かるんですよ。貴方、死にますよ」

 子供と言っても中学生ぐらいだろうか。

 誰かに似ているな、と思う。顔つきや髪質やら。彼女は長い髪をサラリと揺らし薄笑いを浮かべた。

 初対面ではない。以前、墓地で遭遇した少女だ。

「パビャ子は死なないよ」

「…ねえ、お姉ちゃんを返してください」

「ハァ?」

 死んだ目をしている。光のない黒目からは感情すら感じられない。死した生物の瞳を彷彿させる。

「貴方の中にお姉ちゃんの欠片がいるんです。お姉ちゃん、その欠片がないから壊れたままさまよってるんです」

 誰かに似ている。(誰だろう?見た事がある、誰かな)

 断末魔が一瞬、耳を痛めるほどに響いた気がしてこの少女の正体を理解できそうな、そんな気になった。

「死ぬ前に返してください」

 手を差し伸べられ、パビャ子は彼岸花をやった。そんな対応に少女は虚をつかれた顔をする。

「そんなにパーラム・イターが好きなんですか」

「え、え?」

「…お姉ちゃんを狂わせた癖に」

 唇をかみしめて彼女は呪詛を吐く。死んだ魚の目に対して表情は怒りに満ちていた。

「…お姉ちゃんって誰なの?」

「八重岳 イヨ子。ご存知でしょ。パーラム・イターを殺めた、唯一の人ですよ」

「そっかぁ…」

 あの感情は八重岳 イヨ子から来ていたのか。ニヤリ、自然と口角が上がる。

「じゃ〜ぁ、あーげないっ」

「…」

「イヨ子さんには悪いけどこれも私の一部だからね。人はね、すぐ他人になるんだよ。明日になったら昨日の自分はもう別人なんだ」

 彼岸花を叩かれ、赤色が散った。軽蔑され、イヨ子という人は家族から愛されていたのだと想像する。

 ──いや、そうではないのかも。

「絶対に貴方からお姉ちゃんの欠片を取り戻しますから」

「世の中には絶対なんて存在しないよ。オネーサン」

 少女はした様子で強い口調で言う。

「私は八重岳 美伊奈です。覚えておいてください」

パビャ子の手相に生命線とかあるのかな…。

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