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虚無なありきたり 〜別乾坤奇譚〜  作者: 犬冠 雲映子
ンキリトリセン(ミスの決別と清楚凪 錯迷の襲来編)
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ときをたびする そのなな(パーラム・イター登場)

サクメイシリーズになります。夜札星さんの話の続きになります。

次回で夜札星さんの話は最終話です。

「待ちな!不良娘っ!」

 社殿の屋根から自身によく似た──威勢の良い声音がして、即座にライフル銃を下ろす。待ちな、と言われたら止めるしかない。それに声の主からただならぬ気配がして、あきらめるしかなかった。

 夕闇に呑まれそうな視界の中、異国情緒のある装束をまとう女性がいる。

 一瞬、夜札星かと思ったが目を凝らすと、やはり自分そっくりな女だった。

(幻?それともまねしんぼ??)

「よぉ、エセヤモリ。明日アンタらの村にあの有名な修験者がくる。夜札星について話に来るぞ」

「ああー、何だっけか?…アダイオという強力な呪法を扱う人間か。確かに数日前に使いをよこして来たなあ」

「おやまあ。呑気なモンだな。今、アンタは人生の分岐点に立ってんだ。目の前の『こわっぱ』に殺されるか、または明日アダイオと共に夜札星を倒しに出向くか──それか」

 金色の双眸がギラギラと輝き、ニヤリと大胆不敵に笑った。

「アタシに成敗されるか」

「ああん?なーに言ってんだ。この世間も知らぬこわっぱに?ハハハ!…どこの輩か知らぬがお前、曲がりなりにも俺という神を殺められるのか?」

「簡単だよ。ま、アタシの生業は成敗、お前の血なんて浴びやしない」

 女性は境内に張り巡らされた縄を手に、瓦を踏みしめた。それを合図にヤモリも体をうねらせ、飛びかかろうとする。

 まさに一触即発。

 木に巻きついていた体がわずかに動き、ヤモリが狙いを定めたのを知る。アレに体重でのしかかってこられたらひとたまりもないだろう。

「あ、」

 パビャ子は息を飲んだ。見も知らぬそっくりさんの顛末を。


「無様だなー!神さまが亀甲縛り!ギャハハ!」

 御神木に化け物ヤモリが亀甲縛りで吊るされ、顔には紙で『この者、人食い化け物。神を名乗る悪党。成敗したり』と書かれていた。

「セクシーの欠片もねえ!」

「オネーサン。何者?何で私とそっくりなの?」

 結局のところライフル銃は使い物にならず、手持ち無沙汰で終わってしまう。それを目にした女性は「ふむふむ」と観察した。

「七面倒臭い悪魔もどきの匂いがする。アンタ、その銃、早く返却しちゃいな」

「返事してよお」

「あ?アタシは名を語るほどの者じゃないし、この世の者でない部類にラベリングなんて必要ないだろ?アンタに名前はあるの?」

「えー、まあ、私はパビャ子。よろしくねっ!」

 握手を求めたが、彼女は応じずしなかった。金色の瞳が夜に浮かび上がり、何だかフクロウの眼みたいだな、と思う。

「パビャ子さん。早く夜札星の元に戻りな。夜ご飯がなくなっちまうよ」

「変な人」

「──お前、なぜここにいる。パーラム・イター」

 境内に低い、唸るような呪詛が響いた。それは参道として使われている山道にある古びた階段からだった。誰かがいる。

「…フン。目ざといヤツ」

 鼻を鳴らし、パーラム・イターと呼ばれた女性は登ってくる人影を睨んだ。何人もの従者を引き連れた──男装をした修験者。

徒魚(アダイオ)。わざわざご苦労さま〜」

「あれがアダイオ…」

 不思議なのは顔を見た事があり、雰囲気もよく話す人物の生き写しである。…至愚。彼女が人間になり、あまつさえ男装している。そんな感覚に陥る。

「至愚!何でここにいるの?」

「…は?至愚?何の話だ?ソイツは何だい?パーラム」

「さあ、しンないねー」

「至愚、至愚。なんで街にいないの?ラファティは?なんで?体はどこ行っちゃったのお?」

 詰め寄ると眉をひそめて、嫌悪感丸出しで距離をとろうとした。

「変な眷属でも作ってみたのかい?なんと頭が悪そうな…」

「ひどーい!」

「まあまあ、パビャ子さん。じゃ、アタシはもう用無しだから去るよ」

 やれやれ、と立ち去ろうとするパーラムを『至愚』は即座に引き止めた。小刀を手に威嚇している。

「待て。これをやったのはお前か?なぜ、女性が一人死んでいる?」

「このエセヤモリに聞きな。あー、腹でも割いてみれば一目瞭然だけどねえ」

「や、止めてくれ!殺されるのは勘弁だ!」

 終始ぐったりとしていたヤモリが喚き散らす。至愚に似た修験者は無言になり、周りを見回した。

「コレは神として崇められていたモノ…」

 ハハハ、とパーラムは嘲笑う。

「神g」

「そーなのっ!だけど、私が来たら人を食おうとしてたんだよ。あと何か村で幕府が、山で鉱物を掘って金儲けしようとしてるみたい!」

「はあ?な、…ま、まあ、今日はいい。とりあえずヤモリと幕府の者に話を聞こう…あ、くそ。逃げられた」

 そこにはもう、そっくりさんはいなかった。名残惜しい気がしたがどこにもいないのは直感で分かる。

「ねー、至愚。あのオネーサンは成敗なんてしてるの?」

「だから私は至愚じゃない…。ハア、そうだなぁ…あいつなりに義賊の真似事がしたいんじゃないかい?」

「義賊?」

「そうだよ。あー…愚かしいヤツだ…」

現役時代の徒魚(あだいお)さんとパーラム・イターが登場しました。

古語では魚をうお、ではなく、いお、と読んでいたらしいです。私の誤字ではないです(汗)


徒魚さんの名前の由来は、徒なり から来てまして。

虚ろな様を表しているそうで、転じて虚ろな魚です。虚ろな魚って何だ、と思いますが…。

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