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虚無なありきたり 〜別乾坤奇譚〜  作者: 犬冠 雲映子
ンキリトリセン(ミスの決別と清楚凪 錯迷の襲来編)
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ときをたびする そのろく!

サクメイシリーズになります。夜札星さんの話も佳境に。

 パビャ子はアッターにマジカルなライフル銃を贈呈された。争いを産む火種。

 ──君がこれを使えば、敵側のカミサマは一発で死ぬだろう。だがそれは二度と覆せない。君は神を殺した、その事実が残る。

 女児に化けた悪魔は笑う。

 ──キミタチの業界では神殺しって大罪なんだろ?

 神殺し。パビャ子は思わず冷淡な笑みが零れる。神なんていない。この世界に神はいなかった。

(だって、探しに行ったんだもん)

 世界の隅から隅までパビャ子は旅に出た。秘密の旅だった。ラファティにも至愚にも、乎代子にもバレないように。

 彼女には『神さま』に会って言いたい願いがあったからだ。…しかしカミサマはいなかった。

 彼岸に居るのは神のフリをしたこの世の者でない部類ばかり。

 それをアッターも存じ上げているはず。

 本当の神仏がいなければ彼岸も此岸も、昼も夜も存在していないはずなのだから。

 ライフル銃の使い方は良く知っている。人間を狩るのも、そうでないのも慣れている。──うるさい人間を狩る時は頭をぶち抜く。

 パビャ子はこれから来る結末を覗く前に攻めてくる十ヶ月村の人らを見に行きたくなった。どこから来るのか。どんな生活をしているのか。

 あの胡散臭い悪魔の言いなりになっているのは癪だが。

 結末なんて分かりきっている。あの夜札星というこの世の者でない部類は勝者となり大円団を望んでいる。

 ──ある年に飢饉が起きた。不作や相次ぐ災害。村は餓死者だらけになった。

 まだ科学的根拠も確立されていない時代。人々は怒りの矛先を神に向ける場合があった。『嫌な予感がして、神社へ出向くと生き残った村人たちがあれだけ祈り倒したのに雨すら降らないじゃないか、と息巻いていた』。

 確かに村には収穫の季節になったのに稲穂の海がない。紅葉するための木々も著しく枯れ、魚も腹を見せている。痩せ細り病にふせった人々が安置され、呻き苦しんでいる。

 パビャ子は気づいた。これは普通の異常気象や流行病ではない。

 試しに川の水を飲む。産業廃棄物を日常的に、口にしてきたパビャ子には理解できた。人体を害する毒。


 ──どこにでもある物質。

 カドミウム。


 夜札星がいる山の裏で行わられている採掘。穢れた川をたどっていくと、例の村へ到着する。

 村の『旱魃(かんばつ)』具合は同じだが、何やら幕府の者らしき人々が村人と話している。銅鉱石だの、何だの。

(へー。やっぱり。開山って言ってた通り銅を掘ってるんだ)

 こちら側の村人たちは山を削り、銅になる鉱石を採掘しているのを知っているのだろうか?

「アンタ誰だ!」

 バレてしまい、交渉していた侍たちが刀を構えてきた。「雨が降ったのはいつ?」

 ライフル銃で威嚇する。侍たちは動揺したが刀で退治しようとしてくる──が、幕府の人間はこの武器の形状を理解しているらしく、大いに慌てた。

「奴は鉄砲を持っている。やめろ」

「な、なに?!」

「雨が降ったのはいつ?」

「…知らないのかよ!三週間前に大雨があっただろうが!」

 侍の一人が怒った様子で告げた。大雨により村全体が多大な被害を受けたとも。

「へえー。何となく分かったかも。で、今は様子がおかしくなっちゃった農作物やらをお上に訴えようと」

「そうさ。でもコイツがよ、鉱石の採掘を継続しろって聞かねえんだ。こちとら去年から土砂災害やら変な流行病も起きてんのに」

「口を慎め!」

 幕府の者がピシャリと払い除ける。口封じをしたいようだ。

「そもそも開山したのがやばかったんだよ。あの山は呪われてる。大守さまがいる領域ならともかく、夜札っつう悪神が山を腐らせてるんだ」

 もう一人が弱々しく言い放つ。この村には大守さまという鎮守がいるらしい。

「それ以上外部に告げ口したいなら首を刎ねるぞ」

「わ、わったよ。余所者!とっとと去れ!」

 追い払われ、仕方なく村の鎮守を探しに行く事にした。端上村同様、病に伏せた人々が介抱される景色が目立つ。

 パビャ子は何となくあれが毒物によるものだと理解できた。土砂が避けられた水路から、山の砂が村に降りてきたのも。

「大守さまに会いたいんだけど、どこにお社がある?」

 山へ向かう道端で待ちぼうけをしていた子供に話しかけると、彼女はムッとした顔になった。

「おっかあが行ったきり帰ってこないの。山の上にある奥社に」

「奥社があるんだぁ」

「おっかあ連れてきよ。夜になっちゃう」

 約束され、彼女が指した山道を登った。整備のされていない山道には鳥居らしき物はなく、謎の縄がたまに垂れ下がっている。

 土着の信仰があるのだろうか。

 枯れ果てた木々を越え、流造の社殿が建つ中腹までやってきた。そこは夜札星と似ている──が、鳥居も狛犬もない。あるのは縄だ。

「お前、この世の者でない部類だな?なぜ我が神域に無断で?」

 どこからか低く地響きの如く声がして見上げると、大木に女性が括り付けられ絶命している。あれが先程の子供の母親。

「食事をしようとしたのに…邪魔しに来たのか」

 大樹の影から大型の──軽自動車よりも巨大なヤモリに似た化け物が現れた。蛇のような目玉をギョロギョロと動かし、やがてパビャ子を睥睨する。

「アンタが村の鎮守さま?」

「…。ああ、そうだ。下位のこの世の者でない部類にしては礼儀がなっておる」

 ヤモリはケラケラ笑うと舌を死体に這わせる。

「山の話は聞いた?なんか変な事が起きてるって」

「そりゃあもう。朝から何体も何とかしてくれと懇願しにくる。鬱陶しくてたまらぬよ」

「ふぅーん…」

 もう何人か食べられてしまっているのだ。

「元はと言えば夜札の瘴気が山を穢したのだ。アレは元々、(しょう)と言ったな。その通り近くにある物を輝かしいブツに変幻させる…おぞましい化生よォ。村に魔の手を引き寄せて、加えてこちらに面倒を寄越す」

 なるほど。

 パビャ子はううむ、と考え込む。こうなるまで夜札星は何も知らないで過ごしてきたに違いない。こちらの村に厄介事が巻き起こってきたのも。

 アッター・アンテロープから聞かされた『史実』。それによれば夜札星は無抵抗であったという。

(史実の夜札星はある時から周辺の村で起きてる事象を知った?だから、何もしないで)

「私、パビャ子っていうの」

「いきなり何だ。下等生物」

「カミサマは願いを叶える力、持ってるの?」

 無意味名 パビャ子は世界の隅から隅まで旅に出た。秘密の旅だった。神さまにあって言いたい願いがあったから。しかしカミサマはいなかった──

「まぁさか!こわっぱ、お前、この世界に神さまなぞがいると思っているくちか?ハハハ!幼いな!俺は神さまでは無い。願いを叶える神通力もない。人の世に寄生する──ただの人を食う化け物だ」

「そっかぁ」

 残念で仕方ない。パビャ子は手にしていたライフル銃の銃口を向けた。

頭が悪いために大きさを表現するのが訳分からなくなりがちです。

車種関係なくそこら辺を走っている軽自動車くらいの大きさなんだな、と思ってくれればハッピーです。

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