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虚無なありきたり 〜別乾坤奇譚〜  作者: 犬冠 雲映子
ンキリトリセン(ミスの決別と清楚凪 錯迷の襲来編)
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しぐとゆうれい

至愚さんシリーズ、かも知れません。

 至愚はとある市にある、踏切に出現する女性の顔が密かに嫌いだった。

 ふいに、あの神に見えるからだ。日本人女性の顔の幅に限りはあるのは自覚している。だが、人は他人へ記憶を被せてしまう。

 自ら崇めていた神。ソレを至愚は殺めた。

 この世に神さまはいない。人でない者でない部類だった、と──今、科学的根拠が発達した令和なら分かる。

(わかっている。分かっているさ)

 しかし自身にとっては尊き崇拝対象であった。

 神殺し。

 最大のタブーを冒したのを昨日の事のように思い出せる。女神であったこの世の者でない部類を。

「じゃ〜んっ!」

 市にいないはずのパビャ子がかつて自殺の名所だと恐れられていた、踏切の向こう側でカモシカの生首を持っている。あちら側は住宅街なのに暗く、青いLED照明が踏切とパビャ子を照らしていた。

「パビャ子…カモシカの首をわざわざ」

「至愚ぅ〜。これ、カモシカに見えるのぉ?」

 ふざけた顔で彼女は言う。カモシカではないのか?

「これはね。至愚が殺した神さまのクビだよ」

 心臓が飛び跳ねた。『無意味名 パビャ子』はその出来事を知らないはず。

「アンタ…誰だ?パーラム・イターか?」

「えへへ、──至愚さん。忘れちゃったんですか?私です。八重岳(やえたけ)…だった者です」

 パビャ子の外見をさたままの『何か』は口調を変えた。カモシカから血に似た体液が滴り、地面を汚す。

「あだぃお…なぁ、ぜ…ェ」

 ──一言主(ひとことぬし)が息も絶え絶えに呪詛を吐く。

「悪事も一言、善事も一言…でしたっけ?一言主さま、タブーを冒した悪いヤツにお仕置をお願いしまぁす」

「やめろっ!」

 野性にまかせ、鋭い鉤爪で目の前の女を殺めようとした。しかしパビャ子に化けたバケモノは消えてしまった。

「あーあ。野蛮人は困るなー。そうやってパーラム・イターさんを虐めないでくださいね。私、ずーっと見てますよぉ〜」

 どこから声がする。それは生贄に選ばれた少女のもの。

 八重岳 イヨ子は死んだはずだ。

「私ね、一言主さまと仲良くなったんです。初めてのお友達です。嬉しいなー」

「イヨ子。何がしたい?私への復讐か?!」

「まさかぁ。パーラム・イターさんを殺めた共犯ですもの。復讐なんて浅ましい行いしませんよ」

 再び偽物のパビャ子が現れる。今度はこちら側。畑のある月明かりに照らされ、生首が苦しげに口をパクパクと動かしている。三つ目の顔に覚えがある。

 それは確かに神殺しの際に斬首した、神だった。

「知りませんでした?パビャ子さんに紛れて、私も皆と楽しんでるんです。パビャ子さんが街にいない時に代わりにね。えへ」

「イヨ子…」

徒魚(あだいお)さん。今回のように、パーラムさんに意地悪したら、こっちも意地悪しちゃいますから」

 だって、と彼女は付け加える。

「最初からパーラムさんに意地悪する悪いヤツですもん。許シませんョぁあ」

 笑っていたグチャリと顔が歪んだ。タールに似た液体を滴らせ、こちらに近づいてくる。

「…何になったんだ」

「ィe意じ、地わァるなヒトニぁaa──教えません」

 顔が元の、『八重岳 イヨ子』に戻った。しかし腐敗して見るも無惨な状態になっている。至愚は直感的にこの類いの存在には勝てぬと悟った。

 アレは何なのだ?今すぐ逃げないと殺される。

「ァ、だぁ、いぉぉ…」

 かつて崇めていた神の呼び掛けを無視してこの場から逃げる。無駄かもしれない。しかし追いかけてはこなかった。

 息を切らしながら、挙動不審になる。誰もいない。人も化け物も。

 ──私、ずーっと見てますよぉ〜。

 彼女はずっとこちらを監視しているのだろう。どこから?天から?地から?

「ちくしょう…」

 舌打ちした瞬間、いきなり目の前に、車両が突っ込んできて──息が止まる。

 駅舎から脱線し、橋から落ちてきたのだろう。

(こ、これは)

 村を襲った謎の塊──電車に似ている。そっくりだ。後世になりアレが電車だと理解した。なら、パーラム・イターは…?

 この車両はこの線路を走っている鉄道会社の物ではない。

「あだいをさまァ…」

「お師匠さま…どおして」

「至愚ぅ、私を騙したのですか」

 車内からたくさんの問いかけがして、たまらずに背を向けて走り出した。嫌な気分だ。とても。

イヨ子ちゃん、めっちゃ強くなって…。

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