たびにでたい
無意味名 パビャ子は水源から程近い澄んだ川面を眺め、向こう岸へ視線を移す。
──彼岸。
ラファティ・アスケラによれば人は死んで旅に出る。その途中に三途の川があり、それを渡る。たがら現実の世界でも川の向こう側は良く彼岸──異界、あの世があると信じられていると教えてくれた。
渓流の向こう側に彼岸は無いが、草木が生い茂っている。これから赤い花がさく季節になればこの野山にも赤が現れるだろう。それは彼岸花と呼ばれる不吉な花。
乎代子がたまにジッと見つめていた、あの花。
「…何してる?」
偶然、乎代子が外出していた。「んー、向こう岸を見てたの。彼岸があるから」
「あー、彼岸ね。パビャ子は馴染み深いもんなぁ」
「ええ〜?そうなんだ?」
「え、そんなテキトーなもんなの?」
不思議と驚かれ、ハテナを浮かべるがラファティが言っていたようにやはり「旅に出たくなった」。
「ねえ、旅に出ない?人は死ぬと旅に出るらしいよ。乎代子とたくさん旅をして、高い山を歩いて砂漠を歩いて、湖見てさぁ」
「わざわざ閻魔さまに舌を抜かれにいかれるのか?」
「舌ぁ?何でよ」
「嘘をつくと舌をペンチで抜かれるんだって。パビャ子は酷いヤツだから大変な仕打ちを受けるだろうな」
アハハ!とパビャ子は笑う。閻魔さまは自分を見て、怒って何て言うんだろう。
「パビャ子さんは嘘なんてついた事ありませーん。ねー、旅、行こう!」
「い、いや、旅ってどこに行くんだよ?!」
「世界中!」
世界中どこでもいい。二人きりで旅行がしたくなったのだから、目的地なんてない。
狼狽する乎代子を無理やり引っ張って、古びた廃道を歩く。不思議と腐食した廃車が転がっている。乎代子も何かを言っている。
(パビャ子と乎代子から死んじゃえば、自由になれば、旅だらけだよ!)
パビャ子は強い意志で崩落寸前のトンネルへ向かう。
「パビャ子!」
パビャ子さん…
追記 文章を少し加筆修正しました。




