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虚無なありきたり 〜別乾坤奇譚〜  作者: 犬冠 雲映子
ンキリトリセン(ミスの決別と清楚凪 錯迷の襲来編)
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ぱーらむのおちゃかい

「ねえねえ。自分が高級茶汲み人形だって分かったのがそんなにショックだったの?」

 覚醒するとパビャ子のそっくりさん──パーラム・イターがニヤニヤ笑っている。

 血みどろの小川で揺蕩う。なぜ、この場所で眠っていたのか。思考に靄がかかっていた。

 起き上がり、あの非現実的な森に来たのだと自覚した。

 鉄臭い体に顔をしかめ、乎代子はペッと水を吐き出した。

「高級なんだからいいじゃん。他の茶汲み人形に失礼だろ?」

 こちらの気も知らないでパーラム・イターはのうのうと一人、喋っていた。

「…他にいるのか?私に似たヤツが…」

「いるよ。この世にはたくさんの茶汲み人形が。成りたくて成った変態や、仕方なく身を差し出したヤツ。皆、到底、至愚の手に及ばないジャンク品さ。まー、今は知らないね。アンタに封じ込められてからは世間体をサーチできなくなっちまったし」




 この森は異様に蛾が多い。目玉模様がジッとこちらをねめつけ、監視しているみたいだ。

 乎代子は川から脱出すると、初めて客人としてもてなされた。パイプ椅子に座り、テーブルに謎の茶を振る舞われた。

 飲んでみると辛いような変な味がして最低な気持ちになる。彼女曰く高級品らしい。聖獣や高位の悪魔などのみから採集した特性の煎じ茶。

 現役時代の際、もらってみたものの興味がなかったらしい。

 対してパーラム・イターは宇宙人が読みそうな文字が書かれた新聞を読みながら、彼女は言う。古びて摩耗した紙質は年月を感じさせる。

 このパーラム・イターという女性はある時期からずっと時が止まっている。そんな気がした。

「高級茶汲み人形なりに胸を張れよ。私は上位夜逃げ野郎としてきちんと胸張って生きてきたぞ」

「上位夜逃げ野郎って何その肩書き…」

 ニヤニヤしたままパーラムは新聞の文字をなぞっている。

「何もかもそのまま、着の身着のまま逃げてきた。ずっと何百年もね」

「ふぅーん…」

「色んな方面で出禁くらってさー。参っちゃう、ぁー、とかウロウロしてたら、受け入れてくれたのが、大戸或女神(おほとまとひめのかみ)を名乗るあの子でさ…」

「おほとまとひめのかみ?」

 日本神話はあまり詳しくない。数ある中で有名な話しか読んでこなかったのもある。八岐大蛇退治や天照大神が隠れてしまった話。イザナギとイザナミの決別。──古代ギリシャ神話のように、複雑に入り組んだ話の数々を全ては網羅できなかった。ギリシャ神話もあまり知らないが…。

 懐かしそうに彼女は目を伏せがちに少し笑う。

「端折るけど…あの子、おバカさんだから至愚に騙された人間たちに無実を証明できなかったんだわ。それで退治されちゃったわけ。だから私もちょっとした仕返しで至愚の弟子を見せしめにしたり色々した。ま、若気の至りだったかな」

「至愚…」

「迷惑なヤツだよ。勘違いされて追い回されてんだから、私はよー」

 至愚はパーラム・イターへとてつもない恨みを抱いているような、周囲の人らからしたらそんな口ぶりだった。

「何したんだ?ちょっかいだしたの?」

「まさかー。幽霊列車に村が轢かれただけだよ」

「は?」

 幽霊列車は西洋文化が伝来した明治頃から出没しだした怪奇現象であり…そして汽車は村ごと轢きつぶすほどでかくはない。乎代子は眉をひそめたが、話し相手がまともな内容を話すわけがないとそれきり問わなかった。

「いや、そこはツッコミどころでしょォ〜」

 グイグイとつつかれてイラつくも、どうぞ、とジェスチャーをした。


「乎代子さん?幽霊列車はね、幽霊だ。前も言ったろ?幽霊は──どこにでも居て、どこにでも居ない。それは時間すら超越する…なんてね」

 どこかで誰かや出来事やらが幽霊となり、いきなり此岸に影響を及ぼす。かの列車は未来のいつだかの、悲惨な事故を起こし怨念を宿した塊が村を破壊した…。

 あそこまで多大な影響は類を見ない。


「──運が悪かったな。可愛そうな村だ」

「じゃあ、偶然、幽霊列車が村を」

「そう。だが当時の人々は列車なんて見た事もない。馬しかいなかった時代だ」


 村がどのくらいの規模で、どんな地形かは想像できないが。集落が破壊されればば普通、自然災害だと納得する。

 しかし村民は不可解な光景を目にして、理由を探してしまう。それは人間としての普通の反応だ。現代社会でも手に負えぬ災害が発生すれば誰かのせいだと、責める人もいる。その村の場合は祀られている神の仕業だと誤解してしまった。


「村で祭祀をしていた身分の至愚は自ら崇めていた神殺しをした。そして幽霊列車を観察している私を見つけ、コイツが真の犯人だったのかと馬鹿な勘違いをしたんだ」

 女は鬼になるという。般若の面があるように、至愚は清廉な神に仕えるから巫者から復讐鬼に変わった。

「めんどくせーのなんの。神殺しをしたのはてめえだろ?罪を擦り付けようと必死なんだよ」

「はー…それはそれは…」

 親殺し。子殺し。──神殺し。人間における原初的なタブーを冒した罪悪感が至愚を無意識に駆り立てている?

「そのために、…。私は利用されているのか」

 怒りとも呆れともつかぬ感情が乎代子を虚しくさせた。

「だからって至愚を殺めるのも、叱責するのもお門違いだぜ。この際、至愚にちゃぶ台返ししてやろうじゃないか!」

 芝居がかった動作で指をクルリと回すと新聞紙が紙飛行機へ変身する。魔法で飛ばされた紙飛行機は空を舞う。

「筋書き通りをぐちゃぐちゃにしてやるんだ。全部、楽しいよ。崩れ去っていく時のスリル!未来への期待感!最高だ!」

 パビャ子らしい言動ともとれ、刹那主義とも自暴自棄ともとれた。

 コイツは人間だったら、衝動的にホームから人を突き落としたりするタイプ何だろうな、と眺めた。

(私は、少し違う…私は、私だ)

空白がないと読みにくい気がしたので今回は入れました。

至愚さんのお話しやらを書けたつもりです。

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