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虚無なありきたり 〜別乾坤奇譚〜  作者: 犬冠 雲映子
ンキリトリセン(ミスの決別と清楚凪 錯迷の襲来編)
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みーにんぐれす をよこさいどにて(しんそう)

サクメイさんシリーズです。

 渋めのお茶を出され、ミハル・ミザーンとやらがラファティが自分をおぶってこの建物までやってきたと打ち明けてくれた。

 今はラファティが所属している上司に説教をされているらしい。

 部外者をこの場につれこんだのは、組織的に違反だからだ。

「どーでもいいじゃんね?警備員も雇ってないくせにさー」

「…違反行為をしてまで、私を」

「うん。清楚凪 錯迷が干渉してこないような場所を選んだんだろう」

 ミハルの先代が製造したとある()()()()()。それを活用してこの建物はステルス仕様になっている。錯迷と戦い、取得したそれを白スーツ軍団は重宝しているのだとか。

「えっ」

 あの奇妙なリクルートスーツの男を知らない、とアパートの前で言っていたはずである。

「オイラは何度か錯迷と戦った事があるし、まあ、妥当な判断だよなぁ」

 ラファティへはある程度信頼を置いていた。物心ついた時から一緒にいて、焼肉を食べたり、くだらない話をしたり。

(アイツは…平然と嘘をつくのか?今までも…私に嘘を…)

「先輩。来ましたぁ〜。はぁー…」

「長かったな。サリエリちゃん、プンプンしてた?」

「それはもう」

 ゲンナリした様子でミハルの隣に座ると、背もたれに寄りかかった。

「サリエリがしばらくはいていいって」

「…サリエリ、て誰?」

 知らない名前を言われ、警戒心もあがる。生活感のない廃屋で見ず知らずの人々に囲まれるのは抵抗があった。

「ああ…俺ら天使代理人協会の社長みたいな地位にいる人。八重岳 イヨ子も会った事がある」

「八重岳 イヨ子、私の体の元になった人物か…」

 それを耳にした彼は複雑な顔をした。「すまねえ…」

「謝られても」

「乎代子が老衰であの世に行くまで、知らないで欲しかった。イヨ子ちゃんの分も普通に生きて欲しかったんだ」

 綺麗事を並べたような言い草だが、彼の表情は追い詰められている。

「なぜ、だからって」

「イヨ子ちゃんは平凡なナリをして、とんでもないヤツだったよ。普通の子供があそこまで異常性を発揮する事例はそうそうない」

 元から持ち得ていたものなのか。『パビャ子』によって、底上げされたものなのか。

「イヨ子ちゃんはアイツに狂わされた犠牲者の一人だ。これまで何十人もアレに騙され、生贄にされてきた」

「まー、イヨ子ちゃんには罪は無い…と言いたい所だけんど、あの子も大概、やらかしてる。それに…」

「それに?」

「それはそれだ!まずは、ラフ。お前は乎代子ちゃんにきちんと経緯を話せよ。もう逃げんのはやめな」

 はぐらかすと、陰鬱としたラファティの肩を叩いた。彼は頷いて洞太 乎代子の話を語り出す。


 ある出来事があって、パビャ子──パーラム・イターはしてやられた。窮鼠猫を噛む、と言うべきか。

 とある時代までは神社の神を語り、生贄をよこせと要求していたらしい。それからは自らが作り出した異界で生贄を探し、喰らい、血肉と骨やらを元にして此岸に現れ、好き放題していたという。

 その生贄に選ばれた最後の肉体がイヨ子であり、パーラム・イターの異能と魂は不完全な状態で此岸へ出現し、分裂したかのような状態になっていた。

  砕かれた彼女を責任を持ち、ラファティと至愚で世話をしていたのだ。

 此岸にいる二人の女性。乎代子とパビャ子の前身は、ほどなくして死んでしまった。

 パビャ子の方はタフなため、死んだと言っても中身が更に崩壊しただけだが…もう一人は強大な力を宿したまま死体になった。

 が、さすがは彼岸を司っていた邪悪な存在。死体のまま、なおも暴れようとした。

 至愚は必死になってソレを調伏し、厳重にパーラム・イターの力を封じ込め、生きた人形を作り出した──。


「パビャ子はまあ、なんというか、雑にいうとUSBみたいなモンでさ。お前からしたらただのデータだ。データをさせば、お前は不完全ではあるが、パーラム・イターもどきにはなれる」

 ──パーラム・イターが体験してきた情報提供の媒体には丁度いい。だから破棄されずああして動いてんだ。

 現役時代のパビャ子がそう言っていたのは間違えではないのだろう。

「しかし不思議だよね。本来はイヨ子ちゃんの痕跡はなくなるはずなのにさ」

「え?」

 ミハルがお茶をすすりながら言う。

「イヨ子ちゃんはただの容物で、生贄でしかなくて、乎代子ちゃんの中にはないはずなんよ」

「あー…よく分からないけど、そのイヨ子って子の執念…?が?」

「そうともとれるね。そのおかげでパーラム・イターの魂やらはバグって復活できないんだ」

 笑顔でミハル・ミザーンは頷いた。彼らにとって彼岸を司っていた化け物が復活しないのは喜ばしい事らしい。

「…私は嫌だ。パーラム・イターにはなりたくない…つーか、そんなヤツの汚名をかぶりたかない」

 ──洞太 乎代子でしかないのだから。

 清楚凪 錯迷は自らを殺めてコレクションにしたいと零していた。それを利用して逃げ出したいあの、迷惑極まりない女も。

(皆、自分の事しか考えてないじゃないか)

「しかも自分が死んだ、化け物だったなんて、認めたくねーよ…」

「そ、それはそうだよな…けど、俺も生きちゃいない。この隣のミハルさんも」

 この世の者でない部類から、此岸では生きてはいけないのだ。

「至愚も、少しマジになり過ぎたなー。ここまで人間らしい呪具にしちゃうと、本人が苦しむ…。ま、それも至愚なりの仕返しかもねえ」

どうしても長くなってしまう。

至愚さんのサイドストーリーは後々。

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