さくめいとぱびゃこ(みーつけた/みつかった)
パビャ子は細い路地を進むと不思議な古めかしい木造建築にたどり着いた。
まるで寺院のような造詣でありながらも武家屋敷にも通ずる佇まいの建物。増築に増築を重ねたのだろうが、中心部には曲がり屋造りと呼ばれる建造物があった。表札には『冥道』と書かれ、死者へ手向ける為の仏花が置かれている。その屋敷が戸が口を開けている。
誘われるまま足を踏み入れ──るのは止めておいた。
以前もこの屋敷が出現したのを、すっからかんのパビャ子でも覚えている。この屋敷に迷い込み、永遠に彷徨う人たちに助けられた事も。
「そこの中有の者。お入りなさい」
戸の影から機械音声の如し、奇妙な誘いが聞こえた。
「貴方は死にました。貴方の魂はもうこの世にいるべきではありません。この世の者でない部類になる前に、彼岸に渡るか──サクメイの眷属になるか、決めねばなりません」
「サク…メイ?」
どこかで聞いた言葉に、パビャ子は首を傾げる。遠い記憶のどこかで耳にした。いつだか分からない。人類誕生の頃か、それともアダムとイブが林檎を手にした時か。数多の記憶の海から手繰り寄せようとしたが…それも遠ざかってしまう。
マジナイか妖術かで封じられている?そんなような気がして、うーむ、と茶髪をガシガシとかく。
「…その声は、まさかパーラム・イター…!」
「…え??私はパビャ子だよ」
「いいえ、サクメイが聞き間違えるはずがありません。お前は彼岸を司る仕事を放棄して逃げた憎々しい人でなし。…しかし…パーラム・イターのはずだが中有の者が混じっている。…」
「いや、本当にしらないよ。逃げたって。サクメイもしらないよ。中有ってなに?しらない」
声の主は何か考えているようだった。
「そうですか。ではまた、必ずや会いましょう」
「えっ。うん」
屋敷が半透明になり、徐々に消えていく。すっかり目の前には見慣れた街が広がっていた。
「変なのー」
乎代子のアパートでお惣菜の唐揚げを食べていると、彼女は何やらスマホをいじっている。
「サクメイって白い麒麟の事じゃないか?」
「麒麟に色なんてあんの?」
「ああ。白い麒麟をサクメイ──索冥と呼ぶらしい。この世の者でない部類で麒麟を自負する輩なんて、経験上ロクなヤツじゃないよ」
青色が聳孤。
黒色を角端。
赤色を炎駒。
黄色は日本一般で知られている麒麟と言うらしい。
「ふぅーん。じゃあ、近づかない方がいいよね」
「でもまた会いましょう、って言われたんだろ?また会うんだろうよ」
「嫌だなぁ」
めんどくさい物事に巻き込まれそうな予感に、パビャ子は苦い顔をした。
「いーんじゃねえの?トラックに衝突しても無傷なんだから」
この前事故にあったがトラックが大破してしまった。自身はこの世の者でない部類でも何でも跳ね返してしまうほどタフではある。
「じゃー、ステーキ奢ってよ」
「やだね」
ふぅーんだ、と拗ねてみせたが、サクメイという言葉が頭に引っかかっている。昔に良く聞いていたはずである。顔も思い出せる気がして、もしや知り合いだったのかも、と眉をひそめた。
(怒ってるように聞こえたけど、ま、いっか)
麒麟って色々な種類がいるなんて最近?まで知りませんでした。
カッコイイです。黒い麒麟とかめちゃ格好良さそうです。




