せいじゃのじかん
送り火。短いようで長いお盆が終わる。
この世の者でない部類とこの世の者が交差する時期が終わる。夏は秋を含み、風が湿り気をなくしていく。蝉だってツクツクボウシが増える。
パビャ子は春夏秋冬など気に停めはしない。勝手に過ぎ去り、また繰り返される。洗濯機の中にいるみたいに振り回されるだけだ。
それは自由ではない。束縛されるのは嫌いだった。本当は夜も昼も、天気すら左右されたくない。
お盆が終わる日。送り火が済んだ人々は我が家へ帰り、霊園は静まり返っていた。ふいに知らない子供に声をかけられた。
子供と言っても中学生ぐらいだろか。
誰かに似ているな、と思う。顔つきや髪質やら。彼女は長い髪をサラリと揺らし、挨拶してきた。
「こんばんは。貴方が、パビャ子さん?」
「ちわ。私を知ってんの」
「はい。姉がよくブツブツ呟いていましたから」
死んだ目がやはり誰かを彷彿とさせ、パビャ子は首を傾げた。薄らと笑う少女はこちらが手にしているお供え物を見つめた。
「他人の家のお供え物を食べてはいけないですよ」
「たいじょぶ大丈夫!減るもんじゃないし!」
「そうですか。それ、私の家のお供え物なんですけどね」
「あ、そうだったの?ごめんねえー」
渋々元に戻すと、少女は墓石に置かれた写真立てを眺めた。そこには幸せそうな家族写真が写っている。
「お姉ちゃん、元気にやってますか」
「えー、知らないかな」
「そうですよね。貴方に殺されたようなものですから」
「ええっ。まさかキツネとかタヌキとかじゃないよね?!」
「…八重岳 美伊奈といいます。八重岳 イヨ子の妹でした」
「…八重岳 イヨ子…うーん。知らないなぁ」
本当に心当たりがない。何月何日で何年かも、人の名前もロクに覚えてこなかったせいで、彼女がいう人物の顔を思い出せない。
「そうでしたか。お姉ちゃんはそれだけの人でしたか」
「ごめんねえ。ホント。多分そうだったかも」
「良いですよ。お姉ちゃんがあちら側で元気にやれているなら」
「?」
沈んでいく月を遠い目でみやると、丁寧に礼をして少女は墓地を歩いていく。不思議な時間だった。
もう明日には普通の世界になる。彼女なりに何かを伝えたかったのかもしれない。あの子は──この世の者でない部類だったから。
秋らしくなってきました。




