表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虚無なありきたり 〜別乾坤奇譚〜  作者: 犬冠 雲映子
ンキリトリセン(ミスの決別と清楚凪 錯迷の襲来編)
108/162

せいじゃのじかん

 送り火。短いようで長いお盆が終わる。

 この世の者でない部類とこの世の者が交差する時期が終わる。夏は秋を含み、風が湿り気をなくしていく。蝉だってツクツクボウシが増える。

 パビャ子は春夏秋冬など気に停めはしない。勝手に過ぎ去り、また繰り返される。洗濯機の中にいるみたいに振り回されるだけだ。

 それは自由ではない。束縛されるのは嫌いだった。本当は夜も昼も、天気すら左右されたくない。

 お盆が終わる日。送り火が済んだ人々は我が家へ帰り、霊園は静まり返っていた。ふいに知らない子供に声をかけられた。

 子供と言っても中学生ぐらいだろか。

 誰かに似ているな、と思う。顔つきや髪質やら。彼女は長い髪をサラリと揺らし、挨拶してきた。

「こんばんは。貴方が、パビャ子さん?」

「ちわ。私を知ってんの」

「はい。姉がよくブツブツ呟いていましたから」

 死んだ目がやはり誰かを彷彿とさせ、パビャ子は首を傾げた。薄らと笑う少女はこちらが手にしているお供え物を見つめた。

「他人の家のお供え物を食べてはいけないですよ」

「たいじょぶ大丈夫!減るもんじゃないし!」

「そうですか。それ、私の家のお供え物なんですけどね」

「あ、そうだったの?ごめんねえー」

 渋々元に戻すと、少女は墓石に置かれた写真立てを眺めた。そこには幸せそうな家族写真が写っている。

「お姉ちゃん、元気にやってますか」

「えー、知らないかな」

「そうですよね。貴方に殺されたようなものですから」

「ええっ。まさかキツネとかタヌキとかじゃないよね?!」

「…八重岳 美伊奈といいます。八重岳 イヨ子の妹でした」

「…八重岳 イヨ子…うーん。知らないなぁ」

 本当に心当たりがない。何月何日で何年かも、人の名前もロクに覚えてこなかったせいで、彼女がいう人物の顔を思い出せない。

「そうでしたか。お姉ちゃんはそれだけの人でしたか」

「ごめんねえ。ホント。多分そうだったかも」

「良いですよ。お姉ちゃんがあちら側で元気にやれているなら」

「?」

 沈んでいく月を遠い目でみやると、丁寧に礼をして少女は墓地を歩いていく。不思議な時間だった。

 もう明日には普通の世界になる。彼女なりに何かを伝えたかったのかもしれない。あの子は──この世の者でない部類だったから。

秋らしくなってきました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ