さりえりとわらいねこ !ちゅうしょく!
サリエリ・クリウーチはハーッとため息をついて、休憩またはご褒美としてハンバーガーとソーダをひっそりと、廃墟となった雑居ビルで食べていた。
情けないラファティと話すのも、少し疲れる。昔はそうではなかった気がするが…最近は精神的に疲れていた。なぜか自らに精神があるのが、めんどくさい。
(はあ…、眠れるのなら眠りたい)
自らは人でないために、睡眠時間は必要ない。今はあるはずのない睡眠で全てをシャットダウンしたくなった。
「やあ、サリエリ。お暇か?」
いつの間にかチェシャ猫のように、ダクトから『覃(のびる、ひととなる)』がこちらを見下ろしていた。気味の悪い目つきが暗がりでよく目立つ。
「今、思ったね?死にたいって?思ったでしょ」
「思うわけないだろう」
「へえー、じゃないとのびるは現れないよ」
ニヤニヤと小馬鹿にした笑いで彼は言う。ぬるー、と液体のように地面に着地した人面獣は彼女の前に現れた。
「最近暑いね?たくさん人が死んでるね?」
「嬉しいのか?」
「のびるは嬉しいとかいう気持ちは持ち合わせていないよ」
「へー。じゃあ、僕をからかいに来たのはどんな気持ち?」
「うーん?」
首を傾げてまたニタニタと笑いだした。相手にもならない。
「それちょうだいよう」
「これは大切な昼ごはんなんだ。あげられないね」
結構な値段のするジャンクフードを頬張り、彼女は人面獣を観察する。猫に似ているがきっとどの猫にも属さないのだろう。
「サリエリはさ、人間食べないの?変だね?」
「ヴィーガンなんだ」
「じゃあその肉は何?」
ハンバーガーに挟まれている肉を見て、顔を有り得ない角度まで傾けた。
「人間が食べる肉さ。ハンバーガーにはだいたい肉が入ってるからね」
「ふぅーん。おかしなヤツだね?ねえ、なんで死にたいと思ったの?なんで?」
「死にたい…?まさか。眠りたいと考えたのを、君は誤認しているの?」
彼の言わんとしてる内容を悟り、なるほどと感心した。
「投げやりになると、人は希死念慮と似た感情を抱くのか」
「アハハ。実にサリエリらしい」
ふざけていたのびるが大人びた口調をするものだから、一瞬、冷や汗がでた。
「サリエリには分からないよーおお。人から生まれてないサリエリにはね、人なんて分からないまま終わるんだよ。人が考えてる、天使なんてねえ」
顔をクルクル回転させて彼はからかう。悪趣味な暇つぶしだな、と辟易しながら。
仕方なくハンバーガーのトマトを投げ、寄越した。
「餌だ。それを食べてどっか行ってくれ」
「トマトだ。トマトマトマト、ありがとう。植えてみるねええ」
消えていった『チェシャ猫』にさらに疲れ、胸焼けがした。ソーダを買っておいて良かった、と己に感謝した。
のびるくん、トマト食べれるのでしょうか。私にも分かりません。




