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虚無なありきたり 〜別乾坤奇譚〜  作者: 犬冠 雲映子
ンキリトリセン(ミスの決別と清楚凪 錯迷の襲来編)
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ひきょうならふくん

 ラファティ・アスケラはあの『ギャビー・リッター』が本人でないと知っていた。なぜだか周りはあの人をギャビー・リッターだと思い込み、それまで通りに接している。

 あのサリエリすら、ギャビーがすげ替えられていると認識していない。

 しかしラファティだけはその『魔法』が通じなかった。

 怖いし、バレるのが嫌で今まで通りに見知らぬ彼女へ必死に話しかけた。

 ギャビー・リッターはあのような口調ではない。

 ギャビー・リッターは低身長ではない。

 ギャビー・リッターは──サリエリと一番、仲が良かった。

 偽物の、オドオドした彼女からたまに冷たい、獰猛な獣に睨まれているような気がしてしかたない。

 残念ながら自分は、酷いヤツなので化け物に殺されないように、フランクに接するふりをしながら媚びるしかなかった。

 自身が得意な、見て見ぬふりをするしかない。

「ラフ。アンタが天使を名乗ってるなんて、笑かすよ」

 至愚が皮肉を言って、意地悪く笑う。

「ペテン師、ぺ、天使…なんて。ははは!」

「やめてくださいよ。イジりに来たんですか?」

 人面獣はいやいや、と否定した。

「本物のギャビー・リッターに花をたむけにきたんだ。多分、今日が命日だろうから」

 仏花を雑に地面に置くと、彼女はしばし黙祷した。

「この、場所が?」

 変哲もない、脇道が?

「ああ、ここであの女にトドメを刺された。逃げていたのに、見つかってね」

「知っていんですか」

 だが、赤毛の凛々しい顔をした化け物は否定も肯定もしなかった。そして冷たい目をしてこちらを見た。

「お前に教える価値なんてないよ」

 今のギャビー・リッターに、似たような瞳で同じ言葉を吐かれたのを思い出して──黙るしか無かった。

「で、ですよね〜。俺、サイテーですから」

「じゃあ、引き続きパビャ子のお守りを頼むよ」

 人面獣は分厚い足の平と鋭い爪でアスファルトに傷をつけながら、去っていった。

「…はあ、疲れた。ずっと疲れっぱなしだ」

 希死念慮に似ただるさに襲われ、夜中の静まり返った町を歩く。公園でブランコでもこごうかな、と思いつき、彼はムシムシした風に吹かれた。

ラフくん…。

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