閑話1 開発者二人
夜になりましたが、閑話を投稿します。
この話で、主人公が置かれている状況の一端
が判明します。
よろしくお願いします。
前話のあらすじ:
部署移動初日が終了
稼働テスト初日朝
今日から配属されたテスト担当への説明役として、竹崎と後藤は集合場所へと向かっていた。
「昨日は眠れたか?」後藤が後輩を気遣い、声をかける。一見いつも通りに見えるが、開発が上手く行っていない事を(当事者として)理解しているので、心配になったようだ。
一方、答える竹崎は「眠れるわけ無いじゃないですか!」と語気を強くして返す。幾分か興奮しているのが見て取れた。
会話するまで、その事に気付かなかった自分に後藤は思わず苦笑いをする。緊張しているのは自分だった事に気付いたからだ。
「そんなに笑わなくても、いいじゃないですか」バツが悪そうに竹崎は言うが、普段の彼女なら苦笑いの意味を取り違えたりしない。他人の前で猫を被って取り違えたフリをする事はあっても、教育担当だった後藤の前ではとっくに皮を脱ぎ捨てていた。
彼女もまた、精神の高揚によって浮わついているのだった。
暫しの沈黙のあと、仕切り直すように話し出す二人。
どうやら無かった事にするようだ。
「今回の話、本当だと思いますか?」幾分落ち着いた口調で竹崎が問い掛けると、「よく判らん」と後藤が答える。続けて『だが』と前置きすると「元々特殊なモジュールを組み込んでいるんだ。この程度、今さらだろう」とため息混じりに話す。
その声に『そうですね』と賛同を示すと、竹崎は手元に目を向ける。
「でも、少しは期待してもいいじゃないですか。このままじゃ上手く行かないんですから」彼女の手元にある端末には、中原の情報が写し出されていた。
稼働テスト初日夕方
中原と別れた二人は朝とは違い、重さや浮わついた様子もなく、充実感に満ちている様だった。
無理もない。今までまともに稼働しなかったシステムが、目の前で動いたのだ。しかも、その成果を直接視認できたとなれば、目の前の霧が晴れて目的地が見えた気分も当然である。
「流石にたった二人だけ、ヘッドハンティングされただけはありますね。部長程の実績は無かったので半信半疑でしたが、結果を見れば一目瞭然。」と竹崎は言う。続けて「でも、本人も自分の事を理解して無さそうなのに、こんな人材どうやって見つけたんでしょう」と疑問を呈する。
すると、後輩の言葉に少し眉を潜めた後藤が躊躇いがちな様子で答える。
『あくまでも噂だが』と前置きして、
『システム初期稼働時に、必ず成功に導くお守りみたいな派遣社員がいる』
『その派遣社員を運用員として派遣してもらうと、システムリプレイスが成功する』
と告げた。
「だが更新にしろ初期稼働にしろ、顧客の前で失敗しないのは、ある意味当然だ。その為のテスト工程だ」「勿論完璧はあり得ない。絶対にミスしない何てあり得ないが、リスクを最小化する事は出来る」
「だから、発期間の延長や開発失敗等、前段階で問題が発生する事はあっても、寧ろ前段階で問題を具現化し、対処するのが俺達の仕事だと思っている」
まるで指導担当だった頃の様に、つい力を込めて後輩に力説する後藤。
そんな先輩の様子に竹崎は『まるで指導でもされてるみたいですよ』と揶揄うと、話題を一年前に変える。
状況の前進に、普段より饒舌となっている先輩を(後ではしゃぎ過ぎたと後悔するであろうと)気遣った様だ。
「この会社って一年前に、買収されたイベント会社と開発会社を合併して出来てるじゃないですか」社用端末で中原のデータを見ながら竹崎は続ける。
「彼って合併直前に、ウチの元2課課長がスカウトして入ってますけど、普通そんな状況でスカウト何てします?」
いや、やはり中原のスカウトについて、気になっているようだ。
「あの人、うちを買収した親会社に出向してましたけど、部長補佐待遇で完全移籍してますよ。そんな事出来る人って、親会社の人間ですよね」
そう言うと、彼女は車の窓から外を眺める。
「部長といい、あの二人って何なんでしょう」
そう呟いた後輩に、後藤が『三人だ』と訂正する。
意外そうにする後輩には目を向けず、後藤は続ける。
「部長から伝言だ。今、このプロジェクトの肝は三人だと上から言われているそうだ」
『もし竹崎が彼の事を気にするなら、伝える様に言われた。本当に伝える事になるとは思わなかった』そう言うと、後藤も外を見つめる。
「部長が何を伝えたかったのか、何が起きているのかは解らない。ただ…」視線を竹崎に向けながら後藤は、「今は開発に集中するべきだ。」そう締めくくった。
開発が行き詰まっていたので、担当の二人は浮き足だっていました。その為、問題解決の鍵となりそうな主人公自体には好意的です。
それはそれとして、現状に疑問を抱いていますが。
あと、この二人は怪しい機能の担当ではありません。
読んでくれた方がいれば、ありがとうございました。