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青い鳥

アンゼリカの処分が決まり、王は頷く。そして未だ布を噛まされてシクシクと泣くハンナを見た。


「レヴィよ、ハンナ嬢の魔法は発動しないのか?」

「できないと思います。隣国に行った頻度から考えて、一ヶ月に一度しか使えないかと。開戦直前に魔法を使った筈なので暫くは平気ですね。現にここに連れてくるときも魔法を使っていませんし」

「では、最後だ。ハンナ嬢に発言を許そう」


ハンナの口から布が外される。彼女の口から発せられたのは、懺悔でも謝罪でもなく


「なんで?」


疑問だった。


「どうして?なんで皆して私に意地悪するの?いつも私ばかり、どうして酷いことするの!?私なにもしてないのに、私こんなに可哀想なのに!どうして優しくしてくれないの!?どうして皆して私に酷いことばっかりするのぉ!!!」


癇癪を起こした子供のように泣いて、その場に伏せる。オモチャが欲しくて床で駄々をこねる幼児のような姿だった。


アオイが優雅な足取りで歩き、ハンナの前に立つ。そして、その頬を平手打ちした。


【うるせえよ、ブス】


アンゼリカはアオイを慈母のようだと思っていた。それは彼女だけでなく、アオイを知る人達は誰もがそう思っていた。平和主義の優しい聖女様。その人が暴力を振るったのが信じられなくてポカンとしてしまう。


【おまえマジで変わってねえな。こんないい大人になってソレとかないわー。マジでキモい。あの普通のご両親からどうやって生まれたんだよ、おまえ】


王がちらりとオルタムリジンの者達に目配せすると、彼らは小さく頷いた。あれはこの国の言葉ではない、彼らにだけ通じる母国語。


【悲劇のヒロインぶってんじゃねえよ、名前が花子だっただけで。全国には立派で素敵な花子さんが沢山いらっしゃるわ。その人達に失礼すぎるから謝罪したらどうだ?】


慈愛に満ちたような微笑みを浮かべながら、口から出るのは暴言ばかり。だけど、その言葉を理解できるのはアオイを除いて五人だけ。きっと他の人達からは聖女らしい説教をしているように見えるだろう。


【男子は全員自分に惚れてるって妄想でウザかったし、女子には悪口ばっかで。イケメン金持ちが自分に一目惚れするって妄想を聞かされるの本当に苦痛だった。可哀想なのは頭の出来だわ。ただの自業自得じゃん。同情の余地もねえわ】

「アタシは同情するけど」


アオイの言葉を聞いて、前に出たのはライラだった。ハンナは縋るような眼差しをライラに向ける。


「医学用語ではないけど【青い鳥症候群】と言うと解りやすいかな。自分にはもっと素敵な出会いがあるはずだという妄執に囚われて、現状に満足できない。アタシは精神科医じゃなくて産婦人科医だから詳しくは解らないけど」


ライラは憐れみをこめた眼差しをハンナに向けていた。


「手遅れでしょうね」




あれから数日後。ハンナはズダ袋に入れられて、何処かに連れて行かれた。やっと袋から出られた時、彼女は自分が穴の中にいると知る。縦に深い穴の底だった。


「どこ?」


見上げると確かにある空、それ以外は何もない。右も左も土壁のただの穴。寝床もなく食料もなく水もない、ただの穴だった。およそ三メートル、背伸びをしても届かない高さ。半径およそ一メートルの円だけがハンナに許された領域だった。


ハンナはそこに蹲った。こんな可哀想な目にあっているのだから、そのうち素敵な男性が現れて自分を助けてくれるのだと信じてやまなかった。


空腹になってもミミズなどを口にするのはプライドが許さなかった。硬い地面に横たわる惨めさに晒されながら、降り注ぐ夜雨で喉を潤した。いつかきっと、誰かが助けてくれると信じて。そんなもの現実にいないのに。


いよいよ空腹で目が回り始めた頃、ハンナはふと空を見上げた。一瞬だけ青い鳥が飛んでいくのが見えた。


「ああ」


青い鳥を捕まえればきっと幸せになれるのだ、ハンナはそんな妄想に囚われた。


彼女は生まれて初めて自分から手を伸ばす。今まで誰かに与えてもらうのを待つばかりだった彼女が初めて自分で欲し、その手で土の壁に爪を立てた。三メートルをよじ登ろうと懸命に手足を動かす。


あと少し、あと少し。ハンナはついに穴の縁に手をかけた。その瞬間、土が崩れてあっと言う間に逆戻り。床に叩きつけられてハンナは足を挫いた。


「たすけて」


誰も助けに来てくれない。上によじ登る体力もない。空腹と乾きに喘ぎ、痛む足をおさえる。そのうち発熱が始まって意識が朦朧としてきた。こんな時になって思い出すのは両親のことだった。


「まま、ぱぱ」


大嫌いだったから少しお金を盗んだだけなのに、その一回だけで【花子】の居場所をなくした両親。だけど確かに誕生日を祝ってくれていた両親。もう彼らがハンナを助けることはない。そのことに気付いてハンナは絶望した。



それから一ヶ月後、王国より派遣された兵士達が穴を埋めた。


「あっ、カワセミだ」


兵士の一人が声をあげる。その鳥はハンナの故郷では【翡翠】と書き、その色に因んで名付けられた宝石があった。


はたして、それは本当に青い鳥だったのだろうか?

ハンナにはモデルにした人がいます。とにかく自己中心的で悲観にくれており、周りの人を振り回していました。ドクターショッピングをしていたという話も聞いています。もっとも、ハンナは更にどうしようもない存在として書いてます。

ハンナは両親からお金を盗んだことで見限られてます。ハンナ視点では少しになってますが、実際には祖母の遺産である数百万の通帳を盗みました。これが最後のトリガーになり、両親は離婚。ハンナは居場所を失ったのです。

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― 新着の感想 ―
[一言] ハンナの最後は餓死ですか。順当な処刑ですね。 悪行三昧しまくった癖に全く悪いとも思わず反省無し。最後まの最後まで夢に浸かったクズでしたね。 葵と花子は知人だったのですね。伏線ありましたっけ…
[一言] >全国の立派な花子さんに謝れ まったく持ってその通り。 なんて残念で可哀想なあたまの生き物だろう。
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