役者
今回の章を書く際に「義姉」の章を少し弄ってあります。
罪人というのは速やかに処罰されるだけの存在だ。王はただ命じるだけであり、彼がいちいち罪人の行方を気にすることはない。王の前に罪人が連れてこられるという状態は極めて異常事態なのだ。
「その事をやっとライラさんは理解したってワケ」
「どうして疑問に思わなかったのですか?」
「だって【漫画】や【ドラマ】ではよく見るんだもの」
物語はいつだって過激なものだ。つまりは王の前に連れてこられるだけの大罪を犯している。そうでなければ、どのような形であれ男爵ごときが王と話す機会などあるわけもない。
玉座に座る男に睨まれて、二人は縮こまることしかできなかった。
「まだ役者が揃っておらぬ。楽にせよ」
王がそう宣言してすぐに扉が開く。すらりとした男が現れた。その人物は辺りを見回して
「マリィィィ!!!」
特徴的な悲鳴をあげた。
「レヴィ、大丈夫ですか?」
「聞いてない!聞いてないもん!こんな大きな広間とか馬鹿じゃないの!?もっと優しく!僕は【陰キャ】の【コミュ障】だぞ!?もっとウサちゃんに接するみたいにして!」
マリーは怯えるレヴィの手を握り、引きずるようにして広間に入る。やっと壁際で控えていたライラの隣に辿り着いた時、妹の蹴りがレヴィを襲った。
「仕事は?」
「完璧にこなしましたが?全員が捕虜、怪我人こそ多数いるけど死者はゼロ。父もそのうち来るから詳しい話はその時にね」
そう話す二人をちらりと見て、王は咳払いをした。
「今暫く待て。まだ重要な人物が」
「お待たせしました!」
扉を開けて入ってきたのは、やや恰幅の良い男だった。仕立ての良い服を着た男が王の前に跪く。
「ライデン・オルタムリジン、遅ればせながら馳せ参じました」
「よい。首尾はどうだ?」
「こちらに」
彼が指を鳴らすとゾロゾロと人が入ってくる。護衛兵に囲まれた女性のうち、一人は長い髪をたなびかせる美しい女で、もう一人は少し痩せたアンゼリカだった。
「アンゼリカ、どうしてここに?」
男爵が思わず呟くと、ライデンと名乗った男がずいと前に出た。
「私としては聖女様さえ同行していただければ問題なかったのですが、一緒に行くと仰るので」
「当たり前よ!アオイ様を一人で行かせるわけないでしょ!?」
「とまあ、この調子です。私と婚姻する話が持ち上がった時とは全然違いますな」
一瞬、時が止まったような気がした。ライデンは改めて男爵の前に立つ。
「もう一つの名はライカン・オールド。金ばかり持て余しております」
その名は確かに男爵がアンゼリカに勧めた男の名だった。普段はもっと不潔な姿をしているのに、今は別人だと思うほどに身なりがいい。そのため名乗られるまで気付かなかったのだが。
ライデンはにたりと意地の悪い笑みを浮かべる。
「教会に軟禁同然だったお二人をこの国に招いたのは私です。男爵様の領地に向かう馬車の一つに、二人を乗せてほしいと頼みました。快く引き受けてくださいましたよ。私はほんの少しお礼の気持ちを表しましたが」
男爵領には隣国の兵士に見せかけた商人達が行き交っていた。実際はブラフなので兵士は一人も居ない。それが全て見透かされていたどころか、逆に利用されているとは男爵も想像していなかった。これがブラフではなく本物の兵士ならば二人を運んだりしなかったのに。
項垂れる男爵を無視し、王が宣言した。
「残りの役者は後で来るだろう。そろそろ始める」
男爵夫妻の前に聖女が立つ。凛とした姿は思わずひれ伏してしまいそうになるほど美しかった。
「アオイと申します。私には“嘘を見抜く”力がありますので、ゆめゆめお忘れなきよう」
聖女の愛らしい唇が問いかけた。
「ハンナ様、貴方の本名はハナコですか?」
キャラが多くなってきたから整理しようのコーナー。
・マリー(主人公)
・レヴィ(陰キャ)
・ライラ(陰キャの妹)
・男爵(マリーの父)
・ハンナ(男爵の妻、マリーの義母)
・アンゼリカ(男爵の娘、マリーの義姉)
・アオイ(隣国の聖女、異世界人)
・ライデン/ライカン(陰キャの叔父、アンゼリカを後妻にする話があった)
・王様