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婚家についたけど

翌日、マリーはいつもどおり日が昇る前に起きる。裏手の井戸から水を汲んでくる仕事があるのだが、マリーは体力がないので時間をかけてやるのだ。そうして水をキッチンに運び終える頃には朝日が昇っており、料理人に「遅い」と怒鳴られる。これもいつものこと。


朝食は料理に使われなかった端材だ。死なない程度にとパンの欠片と剥いた野菜の皮だけ渡される。後は庭に生えている適当な雑草を引っこ抜いて口にしていた。


今日が嫁ぐ日だというのに、いつもと何も変わらない。


「迎えが来たわよ!このグズ!」


義母の怒鳴る声が聞こえる。半ば引きずられるような形でマリーは玄関へと連れてこられた。隣で父と義母が何かを喋っているが、その内容を理解できるほど頭は動いていない。これが夜ならば、夕食の残りを貰った後なのでまだ頭が冴えているのに。


マリーが喋るより前に、強引に馬車に押し込められる。そこで誰かが耳元で「寝てもいいですよ」と囁いてくれた気がした。もし許されるならもっと寝たい、マリーはその誘惑に抗えず目を閉じたのだった。


「ライラ様にご報告を!レヴィ様には叫ばないよう…無理か」


そんな声が聞こえた気がした。



暫くしてマリーは体を揺すられた気がして目を開ける。ゆっくりと体を起こすと、頭がガンガンと痛んで酷い吐き気がした。久しぶりにぐっすり寝た弊害なのだが、マリーがそれを知るよしもない。


「着きましたよ」


誰かはマリーを抱き起こすようにして馬車から下ろす。ろくに動けない体を支えられながら階段を昇った。そしてフラフラとしながらも何かの屋敷に入った気配を感じたのでマリーは顔をあげた。


そこにはズラッと使用人達が並んでおり、その奥にはスラリとした誰かが立っている。その人はコツコツと靴音をたてて歩いてマリーの目の前に立った。そして。


「ライラァァ!!!」


独特な悲鳴をあげた。


「うるせえクソ兄貴、叫ばんでも聞こえてる」

「だって!だってさあ!?」


ぼやける視界ながらマリーはその二人を見た。片方は背の高い男性だが狼狽えている様子で、もう片方は勝ち気な女性でマリーをじろじろと見ている。女性はマリーと目が合うと、にこりと笑って手を差し伸べた。


「初めまして。私は辺境伯が娘、ライラです」

「え、あ、マリー、です」

「今日はもう疲れましたよね?どうぞゆっくり休んでください」


ライラの言葉と共に、マリーは騎士と思わしき一人に抱き上げられる。いったい何が起こっているのだろうとフワフワとした気持ちで、まるで夢でも見ているかのような心地でマリーは運ばれていった。



マリーの姿が見えなくなったところで、ライラは溜息をついて男を見る。


「レヴィ、奥さんに挨拶するって気合いれたのは何処いった?」

「いかにも虐待されてますって子が来ると思わないじゃん!」

「そーね。人前に出す時ぐらい綺麗にするくらいの知恵は働くもんだよ。それがないって事はさあ、なめられてんだわ」


ライラの鋭い視線にレヴィはぐっと下唇を噛む。


レヴィに嫁いでくる子は実家で虐げられているとは聞いていた。だけど実際に見ると愕然とした。あんな【漫画】でしか見たことないような子が実在するとは思わなかったのだ。


髪は脂と埃でギトギトで、体は鶏ガラのように細く、フケと垢だらけで汚くて臭う。年齢は14歳だと聞いていたが8歳くらいかと思うほどに小さかった。嫁入りだというのに服はドロドロのワンピースで、荷物もない。貧民街から連れてきたと言われたほうがまだ納得できる格好だった。


「そっか。普通はバレないようにするよね。誰かに告げ口されたら困るもんね」

「ナリだけでも風呂に入れて、いい服を着せてさ、ぱっと見じゃ解らないようにしとくんだよ」

「ライラも【前】にそういうの見たことあった?」

「あったよ。それこそバレないようにしてた」


ライラの言葉にレヴィは震える。そうやって隠蔽されるのも腹が立つが、堂々と虐待していた子を渡されるのも腸が煮えくり返る。マリー本人はもちろんのこと、辺境伯に嫁ぐという命令そのものをバカにしたとしか思えない行為だ。


「ふーん?ふーん?そんなことするんだ?あの男爵家は僕にケンカ売ったんだ?後悔させてやる。貴族全員に嗤われて、後ろ指さされて、僕の靴を舐めて許しを乞うまで追い詰めてやる」

「ちゃんと本業はやりなよ。アタシはマリーちゃん診てくるから」

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