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平井のエッセイ・歴史系

追悼 永井路子先生

作者: 平井敦史

 作家の永井(ながい)路子(みちこ)先生が去る2023年1月27日に亡くなられた、とのニュースが流れました。享年97歳、老衰による大往生とのこと。ご冥福をお祈り申し上げます。


 永井先生の作品は、小説もいくつか読みましたが、特に日本の古代から鎌倉時代にかけての歴史読み物には大変勉強させていただきました。


 男性の後ろに付き従うだけだったり、あるいは男性から虐げられていたり、という古代・中世の女性へのイメージに対し、実際にはそれ一辺倒の存在ではなかったのではないか、と一石を投じられた業績は、決して色褪せることはないでしょう。


 特に、「乳母(めのと)」という存在に着目され、当時の社会構造の中での女性の立ち位置を論じられた一連の作品には、私も目からうろこが落ちました。


乳母(めのと)」というのは、身分の高いお方の若君に、単にお乳を与えるだけではなく、夫(乳母夫(めのと))や子供たち(乳母子(めのとご))共々仕えて、養育の全責任を負うものです。

 そうして若君が成人した(あかつき)には、がっちりとその身辺を固め、権力を握ることとなります。


 この、「乳母(めのと)」というものを通して見てみると従来の歴史観が変わる、という例として、鎌倉幕府第二代将軍・源頼家(みなもとのよりいえ)および第三代将軍・源実朝(みなもとのさねとも)と、北条氏との関係が挙げられます。


 ご存じの通り、頼家(よりいえ)実朝(さねとも)北条(ほうじょう)政子(まさこ)の所生ですが、頼家と政子の親子関係はあまり上手くいかず、ついには頼家は北条氏の手に掛かってあえない最期を遂げます。


 で、後に実朝が頼家の遺児によって暗殺された際、これも北条氏が黒幕に違いない、などと言われていたのですが、頼家と実朝とでは、北条氏にとっての意味合いが全く違っていたのです。


 頼家の乳母となっていたのは、比企(ひき)氏や梶原(かじわら)氏などの有力御家人の妻たち。特に比企氏は、娘を頼家に嫁がせて権力を固めようとします。

 では北条氏は? 頼家の(もと)に乳母を送り込むことはできませんでした。

 元々伊豆の弱小豪族で、頼朝の妻の一族という以外に拠り所のなかった、鎌倉幕府初期の北条氏には、まだまだ力が足りなかったのです。


 しかし、実朝が生まれるころには北条氏も次第に幕府内で立場を強め、政子の妹の阿波局(あわのつぼね)という女性を乳母として送り込むことに成功します。


 そのことから、実朝は頼家とは違い、北条氏にとって大切な旗印(はたじるし)であって、これを自ら暗殺するというのは筋が通らない、という話になります。

 実朝暗殺事件に黒幕がいたのかどうかはともかく、少なくとも、北条氏は頼家が邪魔になったから暗殺した、次に実朝も邪魔になったから暗殺した、というような見方は、過去のものとなったと言ってよいでしょう。


 この阿波局(あわのつぼね)梶原(かじわら)景時(かげとき)の失脚に一役買ったことで知られていますが、これも、それぞれの若君を(かつ)いだ乳母一族同士の争いという文脈で読み解けます。


 これら鎌倉時代を題材にした作品の他、飛鳥時代から平安時代にかけての歴史についても、女性ならではの視点で深く掘り下げていった作品を多く残されています。


 私事(わたくしごと)ながら、現在「なろう」で連載中の拙作『女王様はロマンの塊』においても、持統帝や孝謙帝の項の執筆にあたり、先生の作品をあらためて引っ張り出してきて参考にさせていただきました。


 今私がここ「なろう」で歴史エッセイを手掛けているのも、永井先生に影響された部分は少なくないと思います。ありがとうございました。


 あらためまして、今一度永井先生のご冥福をお祈り申し上げます。

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― 新着の感想 ―
[一言]  永井路子先生が亡くなられていたことを、御エッセイで知りました。ご冥福をお祈り申し上げます。  先生は古代から近代に至るまで、たくさんの素晴らしい歴史作品を執筆されていて、自分も拝読して多く…
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