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異世界バックヤード  作者: ポン酢
第一章
6/15

眠り姫とツンデレ(男)

「も~!嫌になっちゃう!!あの客!あからさまに胸をガン見してくるのよ?!しかもカウンター越しに触ろうとしてくるし!!お客じゃなきゃ!脳天カチ割って!二度と子作りできなくしてやるんだけど!!」


昼食のデリバリーを突きながら、マーメイが苛立たしげにそう言った。


私達の働くインサイドビルド「マーメイド」は、午前中営業と夕方から深夜まで営業との2部制になっている。

でも依頼は直接来店する客と電子依頼の客と半々なので、あまり営業時間というのは関係ない。


そんな訳で今、午前の営業の後、揃って昼食を食べている。

今日は来店の客があって、その人がマーメイに絡んでなかなか帰らず、待ちくたびれたユーゴさんがデリバリーを頼んでくれたのでそれを食べる事になった。


怒り狂っているマーメイにユーゴさんは慣れているのか、右から左へスルーして黙々と食べている。

私は苦笑いしてそれを聞いていた。


「う~ん、マーメイじゃなかったら、最低な客だねって同意するんだけど、ごめん。マーメイの場合、女の私でも思わずガン見するから、何か何とも言えない……。」


「レンゲならいいわよ~♡いくらでもガン見して~♡」


「いや……心臓が持たないから、チラ見で十分、満足してます……。」


可愛らしくウインクされてドギマギする。

自分でも何を答えてるんだかと思うが、マーメイのダイナマイトボディを前にしては、性別関係なく誰もがそう思うと思う。

むしろユーゴさんの平然ぷりが私には信じられないくらいだ。


「まぁ、しゃ~ないやろ。うちの客の大半がエロ内容の依頼なんやし。三文インサイドビルドの客なんか、そんなもんやろ。」


食べ終わって、ユーゴさんがゴミをダストボックスに投げ込みながらそう言った。

それにその通りだなぁと苦笑いする。


インサイドビルドは物語を売る商売だ。


依頼を受けてその希望に沿った物語を作って売るといえば聞こえはいいが、蓋を開けてみれば、依頼の大半は物語を楽しむと言うより大人な内容をメインにした、いわば「お楽しみになる」為のストーリーを作って売っている。


正直、初めてインサイドビルドの話を聞いた時は、夢を売る仕事のようでとてもドキドキした。

異世界では精神的にもハイレベルな事が娯楽なのだなぁとか思った。

でも、所詮は人間。

異世界だろうと何だろうと、人の煩悩は変わらないのだ。


「それはユーゴが真面目に仕事しないからじゃない!!もう少し店のランクが上がって!うちの店の評判が上がれば!!エロ依頼以外も増えるっての!!」


「へいへい。そうですね~。」


そう、そう言った内容の依頼は、インサイドビルドないしインサイドクリエイターの評価が上がると減ってくる。

減ってくるというか、受ける仕事が選べるようになると言った方がいい。

メディアに取り上げられる事もあるから、店としてそう言った依頼は控え始めるというのもあるとは思う。


「あいつら!うちが安インサイドビルドだからって下に見て!!何したっていいと思ってるわけ?!」


「確かに今日の人といい、ちょっと嫌なお客さんもたまにいるよね…。」


「もうちょい仕事してよ!ユーゴ!!」


マーメイのやり場のない怒りの矛先が、ユーゴさんに向かう。

しかしユーゴさんは涼しい顔で飄々と言った。


「でもなぁ~?マーメイ?真面目な話で評判がついた場合、ちょっとでもイメージ崩れたらすぐ潰れるで?この規模のインサイドビルドなんか。したら、今のままでええやん??エロは需要が切れる事はないんやし。安定財源をわざわざ減らす事ないやろ。」


言い得て妙だが、確かにその通りだ。

人の煩悩は尽きることはない。

だからこの手の依頼は変な話、未来永劫、安定した需要があるだろう。

マーメイもそう言われてちょっと考え込む。


「……言っている事は間違ってないけど……。だったら!!何でレンゲをメインに『レコードメモリーシステム』を使ってるのよ!!せっかくレンゲが基盤になってくれてるのに!!意味ないじゃない!!」


怒る社長もといマーメイ。

そうなんだよね。

アダルティな内容なら、私が「レコードメモリーシステム」にメインで入らなくてもいいんだよね……。

むしろそっち方面ではあまり役にたたないから、結局、私の後にサブでマーメイがシステムに入る事になるのだ。


「レンゲの異世界の記憶をベースにすれば!他との差別化ができて!今までにない話になるから売れるって言ってたの!どこの誰よ?!」


「いきなりそういう雰囲気全面にだしたら、競争相手に探られるやん??で、レンゲちゃんの事嗅ぎつけられたら、攫われるかもしれないやん??まだ、対策も万全やないんやし。レンゲちゃんを危険に晒すんわ、マーメイの本意やないやろ??」


「そうだけど~。他の店には『レコードメモリーシステム』ないじゃない??」


「それでも利用価値があると思ったら、何でもやる奴はおるやんけ。」


「確かに……。」


いや、多分、そこまで私の記憶に価値はないと思いますよ?お二人さん??

マーメイって一本気なところがあるけど、基本、丸め込まれやすいよね。

ユーゴさんがマーメイの扱いが上手いだけなのかもしれないけど。

でも反対に、ユーゴさんをここまで叱咤できるのはマーメイぐらいだとも思う。

掴みどころがなくて何事にもやる気がなくて、排他的で虚無的なユーゴさんをしっかり捕まえている。

理屈じゃない何かで、ユーゴさんを突き動かしてる。


何気にいいコンビなのだ。

この二人は。


そんな事を思っていた私と丸め込まれたマーメイを、ニヤリとユーゴさんが笑った。


「………それに、な??何も知らん、レンゲちゃんの初々しい反応とか、めっちゃウケがええんやで??」


「!!」


そう言われた瞬間、私はカッとなった。

瞬間湯沸し器のように一気に顔に血が登り、真っ赤になる。

私は勢い良く立ち上がり、コップの水を思いっきりユーゴさんにぶっ掛けた。


「冷たっ!!」


「最っ低……。ユーゴさんなんて大嫌いです!!」


本当、最低。

デリカシーがないにも程がある。


私を基盤にするという事がどういう事なのかはわかってる。

だからこそ、発言には気をつけてくれたっていいじゃないか!!


いたたまれなくなった私は、そのまま勢い良く部屋を出る。

バタンと扉を閉めた。

が、すぐにドアを開けてヅカヅカ歩いてテーブルにあった自分のデリバリーをひっ掴む。

そして、また乱暴にドアを閉めた。


「本当……大ッキライ……。」


そう思ってるのに、何だか泣きそうだった。

どうしてそんな気持ちになるのか、私は気づかないふりをする。


だって駄目だ。

私はどこにでもいるエキストラにすぎない。

誰かの物語のどこにでもいる誰かにすぎない。


世界のどこにも、私が主人公の物語なんて存在していないのだ。


「そんな事……わかってる……もう、嫌なほどわかってる………。」


だから、この世界では失敗しないようにするんだ。

何の因果が、どういう経緯かはわからない。

でも、せっかく違う世界に来たのだ。


同じ失敗は繰り返さない。

私はそう、心に決めた。









バタンとしまった扉を見つめ、マーメイとユーゴはしばらく無言だった。

滴る水をユーゴがペーパーナプキンで拭き取る。

そんなものでどうにかできる感じではなかったので、マーメイは無言のまま近くのタオルを差し出した。


「今のはアンタが悪いわよ??ユーゴ??」


「へいへい。」


「私、ちゃんと客に渡す前に内容チェックしてるけど、そう言う話って今まで見たことないんだけど??」


「うっさいなぁ~。んなもん、他の男に渡さへんわ。」


そう答え、ユーゴは少し顔を赤らめそっぽを向いた。

それを聞いたマーメイは深々と呆れたようにため息をつく。


「ふ~ん、一人でお楽しみって訳??」


「……ええやん、ワイも男なんやし。ちょっとぐらい……。」


叱られた子供が言い訳をするように両手で顔を覆う。

こんなユーゴの一面をきっとレンゲは信じないだろう。

本当、不器用な男だ。

レンゲの気持ちが自覚があるのかないのかはわからないけれど、それなりに自分に向いていることはわかっているくせにこの有様である。

いい加減にしてくれとばかりにマーメイがキレた。


「本人が目の前にいるのに…話作って満足してんのか!!この変態意気地なし!!」


「うっさいわ!!ほっといてや!!」


真っ赤になってジタバタしている。

もう、レンゲが見たらこれがユーゴであるはずがないと言い出しかねない状況である。


「アンタねぇ……童○じゃないんだし……何なの?!そのレンゲに対するそれは?!小学生?!」


「初めてやねん!ああいうタイプ!!イケイケの子しか知らんから!!どないしたらええかわからへん!!」


「……顔を合わせればツンケンして、口を開けば意地悪して……その癖、直接顔を合わせてないモニター越しだと優しい顔して!インカム越しになら素直になれるとか!!男のツンデレなんて可愛くもなんともないわよ!!」


「それは好みやん!!」


「少なくとも!!レンゲの好みとも違うわ!バカ!!」


「バカ言わんといて~!傷つくやん!!」


「うっさい!!『レコードメモリーシステム』が終わった後、お姫様でも扱うみたいにそっと配線外した後、いつもおでこにチュッてしてるの!知ってんだからね?!」


「うそん!!」


「うそんじゃないわよ!!あれ、KISSでお姫様の目を覚まそうとか思ってんの?!キショイわよ?!」


「やめれ~!!ワイのライフ!ゼロになるさかい!!やめれ~!!」


勝者、マーメイ。

完全に戦意喪失し、ユーゴは頭から湯気を出す。

散々言ってやって満足し、マーメイは残っていたドリンクを一気に飲み干した。

そして勢い良く立ち上がる。


「私、これからレンゲのフォローしてくるけど、あんまりレンゲに目に余ることしてると許さないわよ?!」


「わかってんねん……。」


「わかってるならそれに沿った行動しなさいよ!!」


「でも、顔見るとイジメたくなんねん……反応が可愛すぎて……。」


瀕死のユーゴはそう答えるので精一杯だ。

何なんだろう?この茶番は??


「とにかく!自分が本当はどうしたいのか、ちょっと考えて行動しなさいよ?!じゃないといずれ嫌われるわよ?!」


「嫌や~、そんなん嫌や~。」


何なの、この男は?!

ぐじぐじといじけてもじもじしている。

とうとう自分の知っているユーゴですらなくなってきた。

マーメイはお手上げといった顔で部屋を出ていく。


「あれって、本気だからああなってるのかしら??まぁ、レンゲには本気じゃない限り、手出しはさせないけど。」


もうしばらくはよく観察して判断しないとと思う。

レンゲの寝室に向かいながら、マーメイは深々とため息をついたのだった。

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