お買い物デート
少し続きを書く事になりました。
また切りのいいところで休載すると思いますが、宜しくお願い致します。
「レンゲ~!!早く早くっ!!」
「待って!マーメイ!!」
大きな袋を抱え、私はマーメイを追いかける。
追っているマーメイも大荷物だ。
「早く!良いのが無くなっちゃう!!」
「待って?!まだ買うの?!」
「当然っ!!」
今日はマーメイお薦めのショップや古着屋がバーゲンセールを開催しているので意気込んで買い物に来た。
何の日かは知らないが今日は祝日で、連れて来られた街全体が何だが特売セールをしている。
本日、インサイドビルド「マーメイド」は午前の営業はお休みだ。
今日は夕方からのみの営業となる。
だからユーゴさんは多分まだ寝てると思う。
起きたら荷物を運びに来てくれる事になっているのだが、この大荷物を渡されたら凄い嫌な顔をするだろう。
着の身着のままこの世界に来た私は服がなかった。
とりあえずマーメイの服をいくつかもらって着ていたのだが……。
「次はランジェリーショップよ!」
「あ~。うん……。」
「レンゲはちゃんとサイズを測ってもらってからだからね!!」
「あはは……。」
何しろ神乳のマーメイなのだ。
流石に下着はサイズが合わず、とりあえずパット入りのタンクトップとかスポーツブラとかで凌いでいた。
元々、私自身はそんな下着に拘るタイプではなかったのだが、ちゃんとした下着がつけてきた物だけというのは心許無いのでありがたいのだが……。
「ちゃんと勝負できるよう、見立ててあげるからね!!」
「いやマーメイ……。まだ勝負する予定はないので、普段使いの物だけでいいから……。」
「ダメダメダメ!!レンゲは可愛いんだから!!いつそうなってもいいようにしとかないと!!」
「いや……それはその時、考えるよ……。」
「なら~♡私と勝負する??」
「?!?!」
「ヤダ~♡レンゲ、可愛い~♡」
この絶対的巨乳美女にそんな事を言われると、性別関係なく何だがいたたまれない気分になる。
完璧な美女や美男子の場合、同性でも魅了されると言うのは冗談ではないんだなぁとマーメイに出会ってから理解した。
そんなこんなでセール中のランジェリーショップに行き、私は売る気満々の店員さんと選ぶ気満々のマーメイに囲まれ、買い終わる頃にはクタクタになってしまっていた。
「マ、マーメイ……少し休もうよ……。」
「あら~。流石に色々着せ替えさせすぎちゃったかな?ごめんごめん。……あ、ちょうどユーゴから連絡入ってるから、道沿いのカフェテラスに行こっか?!」
腕時計型の端末をいじり、そう言われた。
やっとユーゴさんは起きて活動を始めたらしい。
「いやでも…バイクでこの荷物は無理でしょう?!」
買い込んだ服を見ながら私は苦笑いした。
大半は私の服なのだが、マーメイもこのセールの時に毎年買い込んでいるらしく、二人合わせると結構な量になっていた。
「平気よ。多分、車で来るから。」
「え?!ユーゴさん、車も持ってるの?!」
「ユーゴのって言うか、店のって言うか。」
「え?!店の車?!」
「外観は普通の車よ?単に店の名義にしてあるだけで。」
「……車…あったんだ……。」
「うん。私もユーゴも基本はバイクだけど、車もないと何かと不便だからね。店の名義で共用してるよ。」
「そうなんだ……。」
マーメイはこう見えて、経営者としてしっかりしている。
会社名義にできるものは会社名義にしてたりする。
マーメイは私にあまりそう言う話はしたがらないけれど、ユーゴさんから言わせると「あの見た目でバキバキに厳つい」らしい。
(バキバキに厳ついってどういう事なのかよくわからないけれど、とにかく凄そうなのは何となくわかってる)
「あ!そうだ!!レンゲ、免許取りなよ!!足がないと何かと不便でしょ?!そしたら車、自由に使っていいからさ!!」
「いやいやいやいやいや?!会社の車だよね?!」
「単に会社名義の車だって。」
「いやいやいやいやいやいや?!」
「となると~、どこで免許取るのがいいかなぁ~。」
そんな話をしていると、オープンテラスの席にドローン、いやクーンが飲み物を運んできた。
ここでは当たり前のそれが私には少し怖い。
だって私達は、店の端末機で生体認証をして注文を選んだだけなのだ。
席だって適当に座ったのに飛び回る店舗クーンが連携して、私達と注文を把握して持ってきたのだ。
情報監視社会のここでは当たり前なのだろうけれど、常に何かに自分の存在を把握されていると思うと落ち着かなくなる。
そんな私を尻目に、マーメイはクリーム盛盛りのドリンクを飲みながら上機嫌に情報検索をしている。
こうして見てると、ごく普通の女の子なんだよな、マーメイ。
いや、常に神々しいくらいの美しさとダイナマイトボディだけどさ~。
バーゲンで好きな服を買い込み、見るからに甘いパフェみたいなドリンクを飲みながら、楽しそうにサイバー端末のエアスクリーンを操作している。
とてもこの子が資産家で会社経営者で、そして実は大財閥とつながりのある子だなんて思えない。
甘くないカプチーノを飲みながら、私はそんな事を思った。
ピロン、みたいな音がして、エアスクリーンの一部が点滅した。
マーメイは他の画面を弄りながらそれをタップする。
「ハイ!ユーゴ!!」
『……何がハイやねん。どつくぞ。』
「ははん、やれるもんならやってみなさいよ?10倍にして返してやるわ!」
『やめや、自分にどつかれたら死んでまうわ。』
唐突に始まった二人の会話に頬が緩む。
挨拶代わりのいつもの会話。
何かいいなぁと安心する。
『何、教習所なんか調べとんねん??免停にでもなったんか??』
「違うわよ、馬鹿!レンゲに免許取って貰おうかと思って。」
ごく自然に話をしているが、何故、ユーゴさんがマーメイが教習所を調べているのが見えるのかと言うのはあまり突っ込まない方がいいだろう。
マーメイ本人も気にしてないのに、私が気にしたって仕方がない。
こっちの世界に来て、そしてマーメイとユーゴさんと過ごしてだいぶたったけど、まだ色々な事がなれないなぁと思う。
『あ~、そ言う事。つか、レンゲちゃん、元は免許あるんよな??』
突然話を振られドキッとする。
エアスクリーンを越しにマーメイが私を見つめてニマっと笑った。
「え……あ、はい……。」
いきなりだったので、思わずどもる。
機械越しの会話は仕事中普通に行っているが、インカムだとオープンスピーカーではないし、こんな外でこうなると思わなくて妙にどぎまぎしてしまった。
『なんや、よそ行きの声出して??どないしたん??レンゲちゃん??』
「ユーゴは本当、駄目ね~。女の子の細かい気持ちの揺れには敏感じゃないとフラレるわよ?」
「ちょっとマーメイ!!」
『フラレるも何も……。』
ユーゴさんが珍しく口篭った。
いつも通り意地悪を言われるかからかってくるかと思ったのに意外だ。
通話越しだとユーゴさんもいつもと違うのかもしれない。
それをマーメイが馬鹿笑いしている。
『笑うなや!マーメイ!!つか、後10分でここにつくさかい移動しといてや!ほな切るで!!』
通話が切れると同時に、エアスクリーンをに地図が表示され赤く点滅した場所がある。
どうやらそこで待ち合わせのようだ。
「ん~、ここから歩いて3分~5分だね。レンゲ、準備して?」
「わかった。」
私はカプチーノを飲み干すと、荷物をまとめ始めた。
「…………自分ら……どんだけ買うたねん……。」
車から降りてきたユーゴさんは、げっそりとそう言った。
それに私は苦笑いするしかない。
「何よ~!いいじゃない!!」
「つかな?!レンゲちゃんはわかるんよ?!服がなかったんやし?!でも自分まで何でそんなに毎回買いよるねん?!」
「いいじゃない!!着なくなったのはバザーに出すんだから~!!」
トランクに荷物を詰め込みながら、マーメイはそう言った。
結局トランクだけでは入り切らなくて、少し座席の方にも置く事になった。
車は4人乗りの一般的な小型車だった。
「レンゲ、助手席に乗って!!」
「え?!…いやいやいやいや!!私が後ろに乗るから!!」
「何言ってんのよ!ほら!遠慮しないで!!」
「いやいやいやいや?!こういうのは年功序列?!で!!社長が前に乗ってください!!」
「社長って言うなら社長は普通、後部座席に座るものよ~?事故の際、助手席は死亡率が高いからね~。」
荷物が乗った事で後ろに二人で座るのは窮屈なので、どちらかが助手席に乗るのだが、まさか自分とは思わず慌てる。
私が!いや!レンゲが!とやり合っていると、無表情で突っ立っていたユーゴさんがボソッと一言言った。
「……どっちでもええんやけど……迎えに来てやったのに…そうあからさまに助手席嫌がられると……。さすがのワイでも、若干凹むわ……。」