帰るべき家:後編
ようやく次で回想編が終わりそう。
早く現在に行きたいです。
「忌子という言葉をご存知かな?」
「イミゴ? 何か、新種の魔物か何かですか?」
「違、いや。ある意味、近しい意味合いかもしれない。忌子は産まれながらに、体の一部がない。または精神的に何らかの不具合がある人種を指す言葉。包まず言えば『差別』の言葉だ」
「産まれながらに……そんな人が? 見たことも、聞いたことも」
「忌子は産まれながらに『処分』されている。回復術師によって」
この世界に医者はいない。
では出産はどのように行われているのか。
産婆や助産師はいない。
回復術師がそういった作業を担う。
回復術師とは、一般的に普及している回復魔法。
それを更に極めた術師のことを指す。
彼らの回復魔法は傷の治りが早く、
肉体疲労の回復や魔物の毒にも効き目がある。
回復術師は他の魔法使いと違い敷居が低い。
学校で専門に習い、
連盟に所属することで名乗ることができる。
小さな村でも一人は在中している。
教会の神父のような彼らが出産の際に立ち会う。
出産の痛みを魔法で和らげ、母体を安全を確保する。
「回復術師にとって、忌子はその名が示す通り忌むべき子供。出産した際、何らかの手違いで死んだことにする。コレは公になっていない事実だ」
「そんな事ありません! 回復術師は、そんな非道なことをする方じゃない!!」
琴線に触れたのだろう。
ローズは怒りの感情を露わに、
回復術師の所業を認めようとはしなかった。
「キミがどう思うと構わない。だが忌子の話は、ワタシが治療した患者達のその後に深く関係している」
「末路?」
「彼らが忌子を排除する理由。それは自分達の回復が通用しない存在だからだ。初めから失われている。ある種その子供の基準からしてみれば正常な状態。だから癒すことが出来ない。それが許せない」
「だから排除する? そんな……そんな馬鹿けた理由で。! ここを出ていった人の行方って、まさか!?」
回復で癒せるのは、
『大小の傷』 『魔物毒』
『精神的緊張』 『肉体疲労』
目の前に身体の一部を失った人がいても
その人に回復を施しても治らない。
それどころか痛みすら和らげない。
それが回復術師には許せない。
認められない。駄々をこねる子供の様に。
タチが悪いのがそれが大人だという事。
固まった頭の大人達は、自分達の信じるモノ以外を排除することに躊躇がない。
「街灯が消え始めた。そろそろ話を本題に移そう。キミも本来の目的はそっちだろう。マネー氏の元に戻らず、何処か行く宛を探している」
「……それは今までの経験から来た気付きですか?」
「カルテを勝手に読むように誘った、ワタシの罠だ。あの男とキミとの関係が少々……気に食わなくてね」
ネイヴの目が一瞬泳ぐ。
「なら話をこんなに伸ばす必要も無かった。回復術師云々の話も。それよりも今は」
「行く宛探し、無いわけではない。キミのような患者は珍しくはない。どうしてもというなら、紹介してもいい」
「紹介してください!」
「ダメだ」
「何故です!?」
「キミは帰りたくないと望んでいるが、マネー氏はキミの蘇生を望んだ。少なくとも、マネー氏の意思を確認しない限りは認められない」
ローズのワガママなのか。
家庭内事情が絡んだ緊急性のあるものか。
後者であれば、この判断は遅い。
だが現段階では、それを判断しきれない。
過ごした時間、話してみた感覚は信用できない。
それが演技ではないと言えないからだ。
個人的感情をいってしまえば、
ネイヴはローズの意志を尊重したい。
だが所詮は個人的感情。
ローズのその後の人生を決める決断を
他人様が介入してどうこうしていいものではない。
「……あの男が、私を捨てればいいんですね?」
「捨てなくてもいい。ただキミの受け入れを拒否する。またはそれに相応する行為、発言をしたなら、キミに仕事を斡旋しよう。ただし、あくまでも本人の意思であることが絶対条件だが」
「わかっています。そんなことをしなくても、あの人は明日、私をみたら卒倒するでしょうけどね」