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異世界に医者はいらない  作者: 技兎
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 『濡れ布のゴブリン』

 この地域特有のゴブリンの変異種。

 夜行性のゴブリンだが、この個体に限り日中でも活発に活動し、獲物と繁殖用の雌を探している。


 布を被り、正体を隠す性質がある。

 それ以外は通常のゴブリンと同じ。

 人並みの道具を扱える魔物である。


『ギャヒ ギャヒ』


 我に返り辺りを見渡すと街を抜けていた。

 ここは街の外の湿地帯、季節の影響で霧が濃い。


 アンジャの目の前にはゴブリンのグループ。

 今日も今日とて、街から出た獲物を待ち構えていた。

 そして、一人ふらつきながら出てきた獲物を捕捉する。


「っ!」


 アンジャは拾い上げた石を投げつける。

 ゴブリンはそれを軽くキャッチする。


 単純な彼らは当然怒った。

 アンジャは胸部鎧(アイアンプレート)を外し、胸部を強調する。

 すると彼らの怒りの種類が殺意から陵辱へと変わる。

 変化の具合は股間の膨れ具合で一目瞭然である。


 アンジャの心には夫の面影が残っている。

 当然だ。昨日の今日、理不尽な死を迎えたのだ。

 数時間でその傷が癒えるわけがない。


「……ああああ!!」


 アンジャは殴りかかった。

 傷ついた身体でゴブリンに挑んだ。


 アンジャは望まず、されど望んだ。

 生物は本来、同一の種との行為でしか同族を産めない。

 しかしゴブリンは他種族の雌にゴブリンの子供を産ませることができる特殊な魔物。故に彼らは他種族の雌、特に人間の女性を好んで棲家に持ち帰る習性があるの


 アンジャにはこの街から離れたかった。

 白装束は二人の行方を追うのは明白。

 アンジャは死に逝く身だが、愛娘(こども)は助かる。

 我が子に危険が及ばない様にするためには、二人がこの場所に来たという痕跡を消す必要があった。


 しかし最早余力は残されていない。


 死体が見つかれば騒ぎになる。

 騒ぎになれば捜索され、身元が割れる。

 そしてアンジャがここに来た事が伝え知られる。

 街の噂を知れば、目的が医者であるとすぐに判明する。

 それだけは避けなければならなかった。


『ゲヒャ!』


 ゴブリンは雌の状態を気にしない。

 生きてさえいれば、腕や足が折れていようが関係ない。

 略奪した武器で四肢への斬りつける。


『ガヘャ!』


 傷ついた腹に容赦ない棍棒の殴打。

 ナイフが刺されたままなら、今ので死んでいた。

 だが既に街に到着した時、ぬるりと抜けてしまった。


 ゴブリンならば連れて行ってくれる。

 ここではない何処かにある彼らの巣窟に。

 引っ張られ、陵辱されるかもしれない。

 だがそれは一瞬ですぐに終わる。


 アンジャは今日の内に死ぬ。

 今以外ならいつ死んでもいい。

 巣穴に運ばれ、辱めも覚悟の上で望んだ決死策。


 最初に苛立たせたのはゴブリンの習性を利用する為。

 あの場で裸になれば、その場にいるゴブリンが彼女を辱めてしまう。彼女には一回の行為を耐え凌ぐ体力すら残っていない。


 苛立ったゴブリンは、彼女を群れ総出で虐める。

 文字通り死ぬまでイジメ、辱め、陵辱する。

 穴という穴が塞がり、群が倍になるまで止め無い。


「(……)」


 ひとしきり痛みを与えられた。

 それでなくとも、最早意識も途切れかけている。


 白い髪を引っ張られる。

 アンジャの目論見は成功した。

 このまま巣穴に運ばれ、アンジャはこの世から消える。

 誰にも看取られず、ゴブリンの巣穴で白骨化する。


「(……元気で……ね)」


 血は雨に流れていく。

 引きずられた泥も時間が埋めてくれる。


 彼女が生きた痕跡が消えて行く。

 彼女を知る家族や友人はきっと悲しむだろう。

 そして永久に待ち続けるだろう。


 そしていつか、

 彼女の子供に残酷な真実を告げる日が来るのだろう。


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