鮮血の御令嬢
【一角獣】
黄金の角、桃色のタテガミ、新雪の如く白い馬体。
生息数自体は少ないが、その美しい姿から童話や昔話等でよく登場する為、広く知られた魔物の一体である。
美しい姿の一角獣。
しかしその姿からは想像できない程、
性格は獰猛で凶暴性の塊で出来ている。
縄張りには何人も近寄らせない。
例え同族であろうと、
縄張りに入れば最後、対象を殺すまで追い回す。
角を突き刺し刺殺、踏みつけ圧死、遅効性の毒で毒殺。
原型が無くなるまで殺し続ける。
雌は一生縄張りから出ず、一切の侵入を拒む。
雄は繁殖期になると縄張りを捨て、
雌の縄張りに侵入し、雌との交配に望む。
負ければ死に、勝てば伴侶と新たな縄張りを得る。
また繁殖期は数年周期で行われる。
雌探しの最中、雄は近隣の村村を襲い家畜用の餌を貪る。進行方向に立っていた生物を片っ端から轢き殺す迷惑な生き物である。
そんな一角獣の実力は如何程か。
通常の馬の平均時速は60キロ前後に対し、
一角獣の平均時速120キロに達する。
人が視認した所で何もする事はできない。
追突されれば自動車並みの威力がある。
更に彼らには知能があり魔法を巧みに操る。
脚に風の魔法を付与した際の時速は更に倍。
200キロを優に超えながら、壁に激突しない脚使い。
脚の速さであれば生物界随一である。
額から生える一角は単なる見栄えではない。
突く刺す削る斬る。そして彼らの角を煎じなければ解毒不可能な遅効性の猛毒付き。それでいて非常に硬く、専門の道具を使っても数日かかる。
闘争本能を生物化した様な存在。
それが一角獣。
特にヴァルゴと名付けられた闘技場生まれの彼女は、試合場を縄張りとして考え、数多の選手を屠ってきた実力者。
培った戦闘知識、肉体に刻まれた傷跡。
対戦者の血を浴び嗎その姿から、
鮮血の御令嬢と呼ばれている。
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闘争本能の権化と種族本能の権化。
互いに戦いの血潮が疼いている。
が、両者はすぐには手を出さない。
達人同士の睨み合い、静かな見極めから始まった。
「……」
「ブルゥゥ……」
風格か見た目か。
互いに互いの実力の高さを感じ取った。
接近からの打撃 脚力任せの突進
そんな雑な初動で始めるわけにはいかない。
慎重に値踏みをしなければならない。
「おいおい、何チンタラしてるんだー!?」
「さっさと殺り合え!!」
「ヴァルゴー、お前に賭けてんだぞ! いつもみたいに速攻で伸しちまえ!!」
「オークの嬢ちゃんは、せいぜい色っぽく死んでくれや!!」
「服だけ剥ぎ取れー!!」
しかしここは闘技場。
少なくともここにいる観客達が待ち望んでいるのは、達人同士の立ち会いではない。
殴り飛ぶ歯の欠片。
蹴り砕かれる骨。
切り裂かれ出る内臓。
潰して広がる血肉。
生物の命が呆気なく殺される様。
それが見たくて集まった観客である。
望まれるのは殴り合うの殺し合いのみ。
「……」
「……」
最初に動いたのは一角獣のヴァルゴ。
何の予備動作のない不意の初激は、
魔法を付与していない純粋な脚力の突進。
観客は非難から歓声に変える間などなかった。
だがガラプは反応して対応策を構える。
拳を固めた擬似ボクシングスタイル。
角を避け、馬面を横から殴る王道の対処法。
「ッ!」
「しまっ!?」
だが上手だったのはヴァルゴ。
寸前で馬体を横に向けて急ブレーキ。
ガラプに砂を浴びせ掛ける。
目への直撃は防いだ。
しかし咄嗟にの出来事に目は半開き。
半開きの視界も前に出た手で視界が塞がる。
「ブルゥゥ!!!!」
絶好のチャンスにヴァルゴが選択した攻撃。
それは相手に背を向ける事で発揮する馬共通の大技。
全体重を乗せた後ろ蹴りである。